印パ「ふたつの爆発事件」の背後に浮かぶ「アフガン・ファクター」
Foresight World Watcher's 7 Tips
インドとパキスタンの市街地で立て続けに起きた二つの爆発が波紋を広げています。詳しくは今回取り上げた米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌の報道をご覧いただければと思いますが、10日にインドの首都ニューデリーの旧市街で起きた爆発では13人が死亡。11日に発生したパキスタンの首都イスラマバードでの自爆テロでは12人が死亡したと伝えられます。
今年4月下旬に両国が領有権を争うカシミール地方で起きたテロ事件は、印パの大規模な軍事衝突に発展しました。その緊張は依然として継続しており、パキスタンのシャバーズ・シャリフ首相は爆発を受けて、インドの支援を受けたテロリストの犯行だと表明。インドも、ニューデリーの爆発を「テロ事件」と位置づけました。
ただ、事態の構図は複雑です。シャリフ首相は発言の根拠を示しておらず、同国政府はむしろアフガニスタンの関与を示唆しています(より具体的には、アフガンのタリバン暫定政権と連携しているパキスタン国内の反政府勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の関与)。つまり、パキスタンはインドとアフガン双方に非難の矛先を向けています。
ここで考えておくべきは、2018年のタリバン復権以来、最悪の状況ともされるパキスタンとアフガンの緊張です。パキスタンは先月、越境テロ対策を要求してアフガン領内を空爆。タリバン暫定政権もこれに報復し、国境地帯でパキスタン兵に武力攻撃を行う事態に発展しました。
そのアフガンには、インドが急接近しています。印パの軍事衝突があった5月には、双方の外相による初の電話協議が実施され、先月にはタリバン暫定政権のアミール・カーン・ムタキ外相が同政権高官として初の訪印を行っています。インドのジャイシャンカル外相とムタキ氏の会談では、アフガンの首都カブールにインド大使館を再開させるとの表明もありました。
パキスタンにしてみれば、インドとアフガンに挟み撃ちにされる格好です。印パで起きた二つの爆発の背景には、インド-パキスタン-アフガニスタンの複雑な地政学が浮かび上がっているようです。
ほかには、台湾の通貨安がTSMCに代表される半導体メーカーの隆盛を支えているが、国内経済へのダメージも大きいのではないかとの論稿(英エコノミスト誌)や、中国が電力で東南アジアにエネルギー覇権を確立しつつあるとの分析(FP誌)など、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事7本。皆様もよろしければご一緒に。
[South Asia Brief]Back-to-Back Blasts Rock India and Pakistan【Michael Kugelman/Foreign Policy/11月12日付】
South Asia Brief バックナンバー一覧【Michael Kugelman/Foreign Policy】
「月曜[11月10日]、ニューデリーの象徴であるレッド・フォート[ヒンディー語、ウルドゥー語では「ラールキラー(赤い城)」。世界文化遺産に登録されている]の近くで自動車が爆発し、少なくとも13人が死亡した。それから24時間が経たないうちに、イスラマバードの司法複合施設の近くで爆発があり、少なくとも12人が死亡した」
「近年、この2つの首都で大規模かつ致命的な爆発が起こることは稀だった。今週の事件は、1971年の戦争以来最悪となった[5月の]インド・パキスタン紛争から6カ月後、そしてアフガニスタンとパキスタンの間で2021年以来最も深刻な暴力事件が起きてから数週間後に、地域の安定に対するリスクの高まりを増幅させている」
このように伝えているのは、FP誌の週刊ニューズレター「南アジア・ブリーフ」の最新11月12日号「インドとパキスタンで相次ぐ爆発」だ。担当ライターのマイケル・クーゲルマンは、事件への印パの対応を次のようにまとめている。
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