
核協議を巡り再び「最大限の圧力」政策へ
ウクライナ問題の帰趨を巡って、ドナルド・トランプ米大統領を中心に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領などの首脳レベルで、また関係国の高官レベルでの協議が行われ、世界の注目を集めている。欧州の安全保障問題にも重大な影響を及ぼす事柄であり、また日本にとっても決して「対岸の火事」などではない重要問題である。
他方、トランプ大統領が重視してきたもう一つの外交上の重要課題、中東問題への対応についても、ここにきて新たな動きが見られている。トランプ大統領がイランの最高指導者アリ・ハメネイ師に、イランの核開発を巡る新たな協議を提案する書簡を送り、それに対してイランのセイエド・アッバス・アラグチ外相が3月27日、軍事的脅威や圧力に晒されている限り直接交渉はしないものの、第三者が仲介する間接協議ならば応ずる旨の発言を行った。現時点では、間接協議にせよ、これが現実化するのかどうか、また現実化したとしてもどのような結果をもたらすのか、全く予断は許されない。しかし、ウクライナ問題に続いて、新たな動きが出始めたことは確かである。
アメリカとイランの協議については不透明感が極めて高いが、確からしいことの一つは、トランプ2.0の下で他の重要問題でも繰り返し常套的に用いられている手法が、この問題でも大いに活用されるであろう、ということである。すなわち、まず相手に揺さぶりを掛け、圧力を掛けた上で「ディール」に持ち込み、自らの目的を達成しようとする手法である。
イランを取り巻く状況が厳しいことを、イラン自身も、またアメリカも十分に意識・認識している。長期にわたる経済制裁の下で、イラン経済は持ちこたえているものの疲弊感を強めている。中東地域では、イスラエルの軍事攻撃によって、「抵抗の枢軸」を共に形成してきたハマスやヒズボラが大打撃を受け、密接な関係を有してきたシリアのアサド政権が崩壊した。こうした状況の中で、トランプ大統領は、まさに「最大限の圧力」をイランに再び掛けるべく大統領令を発出し、締め付けを強化しようとしているのである。
イランに対する「最大限の圧力」として最も重視しているのが、イラン経済にとって極めて重要な石油輸出収入の大幅削減に向けた取組みである。トランプ大統領は、2月4日に発出した大統領令で「最大限の圧力」復活を発表し、国務省と財務省にイランの原油輸出をゼロにするよう措置を講じることを指示した。
実際にゼロになるかどうかは別として、第1次トランプ政権の際も「最大限の圧力」行使でイランの原油輸出は大幅に低下することになった。その後も経済制裁そのものは存在していたが、ウクライナ危機の前から始まり、危機の最中に一気に高騰した原油価格に苦しめられた前バイデン政権は、イランの原油輸出に対して特段の厳しい措置を取ることなく、その下でイランの原油輸出は拡大した。拡大したイラン産原油の実際の引取り手が(マレーシアなどを経由しつつ)中国企業であることは石油市場関係者なら誰もが知る事実となっていた。ここで、トランプ大統領は、新たな核協議を意識して、「最大限の圧力」を掛けていくことになる。
中国が「協力」なら年後半に向け約100万B/D減少
重要なのは、本質的に締め上げるべき対象は石油輸出「収入」であり、輸出「量」ではない、ということである。もちろん、輸出「量」が完全にゼロになれば、輸出「収入」もゼロになるが、輸出「量」が削減されるということであれば、価格が重要な問題となる。換言すれば、輸出収入は、輸出量と単価(原油価格)の積であり、輸出が減っても価格が上昇すれば、収入がどれほど減るのか読み切れない。場合によっては、価格上昇によってイランの収入が増加してしまうケースすら考えられる。

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