米、パキスタン、情報協力で和解進む

執筆者:春名幹男 2011年6月6日
タグ: CIA
エリア: 北米 アジア

 米中央情報局(CIA)の鑑識専門家が先週、ウサマ・ビンラディン容疑者が潜伏していたパキスタン首都郊外アボッタバードの隠れ家の捜索を行った。隠れ家突入の電撃作戦はレオン・パネッタCIA長官が指揮したが、実行したのは米海軍特殊部隊SEALS。CIAの鑑識専門家が隠れ家内に入ったのは初めてのことだ。
SEALSは現場からパソコンや電子媒体、ノートなどを持ち帰り、現在CIAで分析中。しかし現場にいたのはわずか40分間。CIA側は徹底した現場捜索が必要だとして、マイケル・モレルCIA副長官がパキスタンを訪問、アーメド・パシャ3軍統合情報総局(ISI)長官と交渉し、CIAによる捜索が実現した。
パキスタン側は同時に、ISIが電撃作戦後に現場から押収した証拠品をCIA専門家が検査することも認めた。他方CIA側は、SEALSが現場から持ち帰り、米バージニア州北部のCIA施設に保管中の証拠品をISIのテロ対策専門家が調査することを認めた。ビンラディンが書き残していたノートなどにはアルカイダ工作員の氏名などが記されており、CIAにとっても、アルカイダの組織、動向を知る上で、ISIの協力が必要、と伝えられていた。
電撃作戦後、米国とパキスタンの関係が悪化したが、双方にとって良好な関係維持は「両国にとって有益」(南アジア情報筋)なのは明らか。パキスタンは既に作戦で使われた米軍の最新鋭ヘリコプターの残骸を米側に返還した。今度の情報協力を通じて和解はさらに進むとみられる。
先週のCIA専門家による捜索では、壁や敷地内の土中などに文書、物資、機器などが隠匿されていないか捜索、ビンラディンの居室の床のチリなどを採取したとみられる。パキスタンのドーン紙によると、3~5人のCIA専門家が現地にヘリコプターで入り、6時間以上にわたって現場捜索を行なった。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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