深層レポート 日本の政治 (152)

「石原新党」で複雑化する衆院選後の政界地図

執筆者: 2012年10月31日
エリア: アジア

 東京都の石原慎太郎知事が10月25日に記者会見を開き、知事職を辞任して新党を結成した上で国政に復帰すると表明した。これにより、次期衆院選をめぐる政治状況はいっそう複雑な様相を呈してきた。既成政党の中で、石原氏の発言によって特に衝撃を受けたのは、政権与党である民主党よりも石原氏の新党と支持層が重なる自民党の方だろう。衆院選が近いという状況の下で、自民党は石原新党と保守票を奪い合うことになる。

自民「楽勝ムード」が一変

辞職の記者会見をする石原慎太郎東京都知事 (C)時事
辞職の記者会見をする石原慎太郎東京都知事 (C)時事

 凋落の一途をたどる民主党が相手とあって、自民党には、これまで衆院選に向けての楽勝ムードが漂っていた。しかし、石原氏の新党結成宣言によって事態は一変した。場合によっては、両党の候補者が共倒れになる可能性さえある。また、そうしたことを踏まえつつ、衆院選後には、自民党は橋下徹大阪市長が率いる「日本維新の会」も含めた第3極の政党との連携の可能性を模索しなければならなくなってきている。  1999年の東京都知事選で石原氏と争ったことのある新党改革の舛添要一代表は10月29日の記者会見で、「石原カラーで言うと、票を奪われるのは自民党。自民党は年内解散と言っているがどうなるのか。おそらく自民党も非常に困っている」と述べた。実際、自民党幹部のひとりは率直に「石原新党結成は自民党にとっては迷惑な話」と記者団に話している。石原氏の辞任表明当日、安倍晋三自民党総裁は遊説のために鹿児島県を訪問していた。現地で取り囲んだ記者団に、安倍氏は次のように言った。 「現段階で、我が党の候補者がどんどん決定している。ひとりでも多くの候補者が当選を果たすように全力を尽くす」  自民党は全国の300小選挙区のうち、すでに9割を超える約270選挙区で候補者を固めている。残る約30選挙区のうち10選挙区程度では公明党との選挙協力を予定しており、もともと候補者を立てる予定はない。つまり、まだ候補者のめどが立っていない選挙区は、事実上わずか20選挙区弱にすぎない。石原新党との選挙協力を進めるという手段もあるが、すでに内定済みの候補者の出馬を簡単にやめさせるわけにもいかない。結局、石原新党が候補者を擁立すれば、ほとんどの選挙区で自民党候補とぶつかることになる。  石原氏は維新の会との連携に積極的だ。橋下氏の影響力が強い近畿圏を中心に、自民党候補は維新の会候補とも激突する。  もちろん、自民党と石原新党、維新の会が衆院選で潰し合ったとしても、民主党が漁夫の利を得る選挙区は少ないだろう。それほど民主党の不人気ぶりは激しいからだ。ただ、民主党の存在を無視したとしても、自民党の獲得議席が石原新党や維新の会に削り取られて目減りすることは十分想定できる。  石原氏の新党結成前の各種世論調査の結果から類推すると、次期衆院選で自民、公明両党は合わせて過半数の241議席以上を制する可能性があった。当然、自民党の士気は高まり、衆院選後に自民、公明連立政権を樹立するとの見方が強まっていた。だが、第3極の台頭により、自公両党だけで衆院の過半数を制することができるか微妙な状況になってきている。  これにより、当然、衆院選後の政権与党の枠組みにも変化が生じる。

カテゴリ: 政治
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