リーマン・ブラザーズ社の破綻から始まった世界経済の変動は、2年を経過しても収まらないだけではなく、更なる影響の波及が観察されるに至った。その広域性と、こだまが行きかうような波動の重なりこそが、グローバル経済のダイナミックスの特徴となってきた。患者の病状を診断し、治療の任にあたる臨床医は、病名の特定を行なわねばならない。誤診かどうかは、死体解剖によって病源が特定されてはじめて分かるというに過ぎない。今回の世界経済という患者に臨む医師は、基礎医学の遅れにいらだちを隠せないでいる。しかし、患者に処方箋を用意せねばならない立場からすれば、過去の基礎医学の業績がいかに心許ないとしても、診断拒否が職場放棄に直結する以上、自己の職業上の責任感覚だけを頼りに一歩前に出る以外ないのだ。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン