饗宴外交の舞台裏 (172)

仏独和解50周年に開かれた「シェフのシェフ・クラブ」

 夏休みが終わり、外交の季節が再びやってきた。各国の元首の料理人たちも多忙な緊張を強いられる日々に戻った。今夏、彼らは忘れがたい体験をした。「シェフのシェフ・クラブ」の集まりで、仏独両国でオランド仏大統領、メルケル独首相直々に歓迎を受け、下にも置かないもてなしを受けたのだ。

「よき料理は人を結びつける」

「シェフのシェフ・クラブ」は世界の元首のお抱え料理人たちで作る親睦組織である。「シェフ(フランス語で大統領、君主)のシェフ(料理人)」という訳で、当然ながら誰でもメンバーになれる訳ではない。現役であることも条件だ。設立は1977年で、標語は「政治は時に人を離反させ、よき料理は人を結びつける」。現在の会長はモナコのアルベール2世の料理人、クリスチャン・ガルシア氏が務める。
 元首の料理人たちは著名レストランと違い、注目を浴びることもなく、裏方に徹する。目立たずにいることが本務である。秘密保持義務も厳しい。そんな環境にあって、同じような体験をしている仲間の集まりは貴重だ。毎年1回、外交が小休止する夏のバカンスの時期に顔を合わせ、レシピを交換したり、体験交流をして親睦を温めてきた。昨年は北京、一昨年はモスクワで開いている。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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