クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

姦通罪とトルコの脱亜入欧

執筆者:徳岡孝夫 2004年11月号
エリア: ヨーロッパ 中東

 フランスの小噺に「銀行預金と女房の話は、親しい友にもあまりしない方がいい」というのがある。なぜなら「ときどき借りられるから」。 トルコがEU(欧州連合)への加盟に備え、その障害になりそうな姦通罪(禁固二年以下)を刑法改正案から削ったというニュースを読んだ。うっかりトルコ人の友達の奥さんを借りてしまっても、慰謝料を取られこそすれ刑事犯としてブチ込まれる心配はなくなった。念のために申し添えるが、これはかつて日本の紅灯の巷を席捲した「トルコ嬢」との恋には何の関係もない。 トルコ国民七千万の九九パーセントはイスラム教徒で、イスラム教が婚外性交に極めて厳しいことはよく知られている。夫は間男した妻を刺し殺してもよく、姦夫も石打ちの刑によって殺される。いまはイスラム国家も近代刑法を持っているはずで、石打ちが常時行われることはないようだが、姦通(ソフトに言えば不倫)への厳格な態度は、それぞれの刑法により受け継がれているに違いない。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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