外交官が外務省を定年退職する時、夫婦で「任地で大きな事件、事故がなくてよかった」と安堵の言葉が口をつくという。これは何人もの外交官OBから聞いた話だから本当だろう。
任地で邦人がクーデター、テロ、大災害などに巻き込まれると、邦人保護の最前線に立つ日本大使館は大変だ。陣頭指揮をとる大使の危機管理能力が試され、メディアの批判にもさらされる。しかしその大使が事件の渦中に巻き込まれたらどうなるか。
駐ペルー大使だった青木盛久氏は1996年12月、公邸で天皇誕生日レセプションを開いているさなか、過激派に襲撃され、71人の人質と共に126日間、公邸内で囚われの身となった。いわゆる日本大使公邸人質事件である。この時、公邸の外から物心両面で支えたのが夫人の直子さんだった。その直子さんが最近、取材に応じ、当時、ほとんど報じられなかった「大使夫人の危機管理」について語ってくれた。

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