データが示すコロナ禍「店舗消滅」の危機

執筆者:鷲尾香一 2020年9月24日
カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
エリア: アジア
明らかにネット利用が急増しており、今後もこの傾向が続くと……(総務省データに基づき筆者作成、以下同)
 

 店舗が消える――。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、消費者の行動は大きく変化した。今や店舗を構えても商売は成り立ちにくくなっている。ネットショッピングの利用拡大により、店舗は消えようとしている。

 新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言に伴う外出と営業の自粛要請が、観光・宿泊業、飲食業、小売業、サービス業などの様々な業種に壊滅的な打撃を与えたのは、ご存じの通りだ。

「巣ごもり消費」が活発化し、消費の場は「店舗」から「ネット」へと大きくシフトを起こした。

 5月25日に緊急事態宣言が全面的に解除され、経済活動が正常化に向かって動き出した後、消費の場はネットから店舗への回帰が徐々に進んでいるものの、その動きは遅々としたもので、ネットにシフトする消費の場の流れを押しとどめるものにはなっていない。

ネット購入「総額」「利用世帯」急増

 こうした状況は、経済統計でもはっきりと確認することができる。

 総務省の「家計消費状況調査」では、インターネットを利用した消費の状況を調査集計、毎月発表している。それによると、「インターネットを利用した支出総額」(図1)では、新型コロナの感染拡大が懸念され始めた2月以降、支出額が急増していることが見て取れる。

 この「支出総額」とは、全国の総世帯から抽出した世帯が1カ月間に使ったネットショッピング額(食料、衣類、医療、雑貨、書籍、音楽、旅行など22品目)の1世帯当たりの平均を示している。

 例年、12月はインターネットのショッピングサイトなどがセールなど年末商戦を実施するため、1年間で最も支出額が大きくなる。図1で示された2019年12月は、前月から急増して1万7000円を超えた。

 そして、これも例年の傾向だが2月に最低額まで落ち込む。以後は毎月微増減の横ばいで推移する。ところが今年は2月以後毎月急増し、6月には12月のセール時とほぼ同額の1万7000円台まで増加しているのだ。

 また、消費の場がネットにシフトしているのがより鮮明にわかるのが、「ネットショッピング利用世帯の割合」(図2)だ。

 

 3月から増加に転じた利用世帯割合は、4月に大きく上昇して過去最高の47.3%を記録した。年末商戦でもない4月に利用世帯が急増するのは極めて異例だ。そして5月には一段と上昇し、調査以来初めて50%を超えた(50.4%)。国内の半分以上の世帯がネットショッピングを利用したということだ。

 さらに、緊急事態宣言が全面的に解除された後も、6月、7月と利用世帯の割合は50%を超える水準を維持しており、消費の場がネットにシフトしているのが“一過性”ではないことは明らかだ。

 中でも特徴的なのは、「65歳以上の世帯のネットショッピング利用割合」(図3)である。

 

 一般的に高齢者はネット利用に消極的な傾向があり、従来からネットショッピングの利用割合も伸び悩んでいた。ところが、新型コロナ禍の中にあって3月から利用割合が急増し、5月以降も他の年齢階級とは異なり、30%を超える利用割合が増加傾向で続いている。

 今や高齢者世帯でも3割以上がネットショッピングを利用している点は、高齢者にもネットショッピングが根付いていることの表れでもあろう。

「食料品」「出前」急増

 消費者の意識が消費の場を店舗からネットにシフトさせたことにより、同時にネットショッピングで買われる商品にも変化が表れている。そこで、いくつか特徴的なものを取り上げてみよう。

 まずは「食料品」(図4)。

 

 こちらも3月以降、購入額が急激に増加している。5月末に緊急事態宣言が解除された後は購入額が減少しているものの、2019年の年平均額1135円よりはるかに高額の2000円以上であり、高止まりの傾向である。

 従来、食料品は「ネットでしか買えない高級、あるいは希少な食料品」の購入が中心だったが、新型コロナの影響で、「日常の食事向け」の購入にまで拡大したことが窺える。つまり、これまでは店舗に買い物に行って購入していた食品までネットで購入するようになったのだ。

 この傾向は、「出前」(図5)にも同様に見られる。

 

 こちらも3月から急激に購入額が増加し、5月に443円のピークを付けた後も高止まりが続いている。デリバリーサービス「Uber Eats」の活況が象徴するように、新型コロナでの外出と営業自粛により、多くの飲食店がデリバリーに参入した。というよりも、デリバリーで生き残りをかけたという方が正確かもしれない。

 都内で寿司店を営む筆者の知人は、7月末で店を閉めた。

「政府の緊急事態宣言は解除されたが、都内の飲食店は営業時間が短縮されていたため、来店客は前年の10分の1以下になった。売上でも10分の1程度まで落ち込み、店を開けていられない状況だった。店舗は自宅兼用だったので家賃負担はないが、生活できない状況だった」

 という。

 現在は持ち帰りを中心として、デリバリーを行う複数のサイトに登録することで細々と商売を継続している。

 一方、「医薬品」(図6)は特徴的な動きをしている。

 

 3月から倍近く急増した4月に購入額が319円のピークを付けると、その後は急激に減少し、7月には208円とほぼ3月水準にまで戻っている。これは、マスク不足が一時社会問題化し、ネットでのマスク購入が集中した影響だろう。その後も、消毒液などのネット購入が続いたが、品不足が解消すると、急激に購入額が減少に向かっている。

 そもそも、医薬品はネット販売に厳しい規制が行われており、販売できるのは、いわゆる「市販薬」のうち、副作用、相互作用の程度によって分類されている「第1類医薬品」「第2類医薬品」「第3類医薬品」の一般用医薬品のみ。これ以外の「要指導医薬品」に分類されるものは、薬剤師による対面販売が義務付けられているため、ネット販売はできない。もちろん、医師の処方箋がないと薬局でも販売できない「医療用医薬品」については、ネット販売は許可されていない。こうした事情から、ネットでの医薬品購入は少ないのが現状だ。

増える一方の「シャッター通り商店街」

 さて、新型コロナで最大級の打撃を受けたのは、観光・宿泊業だ。その影響の大きさは、「インターネット決済の旅行関連」(図7)に如実に現れている。

 

 2月に新型コロナの集団感染(クラスター)が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号が横浜港に入港し連日報道されると、直後から旅行関連の消費に陰りが見え始める。

 そして2月27日には、安倍晋三首相(当時)が国内すべての小中高校に臨時休校を要請。3月9日にはいわゆる“3密”を避ける呼びかけが行われ、3月24日には東京オリンピック・パラリンピック開催の1年延期が発表された。さらに4月7日、緊急事態宣言が発出されるに及んで、旅行関連はボトムを迎える。5月25日に緊急事態宣言が全面的に解除されても、その戻りは非常に鈍いことが明らかだ。

 新型コロナの影響は、単に消費の場がネットにシフトしているだけではない。

 たとえば、テレワークや在宅勤務が普及したことで、人と対面する機会が減少し、スーツやネクタイ、あるいは外出着、女性の化粧品などの需要が減少しており、販売額は大幅に減少している。

 つまり、消費の場がネットにシフトした商品だけではなく、商品の需要そのものが減少したものもある。この両方ともが店舗での販売に影響を与え、店舗を構えて商売を行っていくことを困難にしているのだ。

 そして、緊急事態宣言が全面的に解除され、経済活動が正常化に向かって動き出し、消費の場はネットから店舗への回帰が進んでいるとは言え、現状では多くの店舗で客の戻りは鈍く、厳しい経営状態が続いている。

「表1」は、厚生労働省がまとめた「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」(9月11日現在)だ。

 

 今後、雇用調整の可能性が全国で9万を超える事業所にあり、上位5業種のなかに、飲食業、小売業、サービス業という店舗販売との関連が強い業種が入っている。

 同様に、5万4800人超の解雇等見込み労働者数の上位5業種にも、飲食業と小売業が入っている。つまり、今後、まだまだ店舗が姿を消す可能性が高いことを示唆しているのだ。

 中小企業庁は3年に1度、全国の商店街で実態調査を行っており、「商店街実態調査」として公表している。

 このなかで、商店街のうち空き店舗率が10%を超えているところを「シャッター通り商店街」と定義しているが、2018年10月1日現在の「シャッター通り商店街」は、全商店街の実に41.3%を占める。

 従来、空き店舗が発生するのは、商店主が高齢化し後継者が不在であることや、地域住民の高齢化や減少、あるいは大型店の出店などによる経営不振が主な理由だった。それが新型コロナ禍によって、集客力がある大型店やショッピングモールなどに出店している店舗は比較的に影響が軽いが、商店街の店舗は、やはりさらなる深刻な影響を受けている。

 空き店舗が増加することは、商店街の魅力を失わせ、集客力も低下させる。ここに新型コロナの影響による経営不振が加われば、今後さらに「シャッター通り商店街」が急増する可能性が強まる。店舗は否応なく、姿を消していくことになってしまうのか。

 9月16日に発足した菅内閣では、菅義偉新首相が就任会見で、新型コロナ対策を最重要課題に位置づけた。そして菅首相は官房長官としても、地方活性化を命題として掲げてきた。果たして新政権は、この「店舗消滅」の危機にどんな対策を打つのだろうか。

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執筆者プロフィール
鷲尾香一 金融ジャーナリスト。本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。
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