ウクライナを切り裂くパワー・ポリティクスの刃(2022年1・2月-1)

地下シェルターに避難したキエフ市民(2月26日)   (C)AFP=時事
「われわれは、このようになるということを分かっていたのだ」と、プーチンの行動を観察し続けたフィオナ・ヒルは国際論壇に向けて矢を放つ。その鋭い批判が射貫くのは、グローバルな国際協調体制という楽観主義に溺れた西側諸国の傲慢さだ。ロシアのパワー・ポリティクスからの挑戦に、自由民主主義が揺れている。

1.緊迫のウクライナ情勢

 2022年の幕開けは、平和な時代の到来を告げるものとはならなかった。引き続き国際関係は深刻な緊張や対立を孕むものであり、これまで以上に軍事衝突勃発の危機は高まっている。

   近年の国際関係を大きく左右してきた米中対立の構図に加えて、ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が、よりいっそう国際情勢を不安定で不透明なものとしている。軍事侵攻が始まった2月24日以降の議論を取り上げることは次回に譲るが、年末から現在に至るまでの国際論壇はウクライナ情勢をめぐる論考で溢れている。おそらくは、この対立の帰結が今後の国際秩序の行方に長期的な影響を及ぼすとみなされているからであろう。はたして、この緊張状態はいったいどのような結末に至るのであろうか。

■西側の対ロ融和に厳しい批判

 昨年末の12月10日付の『フォーリン・アフェアーズ』誌に、ウクライナ外相のドミトロ・クレーバによる論考、「ウクライナを売ってはならない」が掲載された[Dmytro Kuleba, “Don’t Sell Out Ukraine(ウクライナを売ってはならない)”, Foreign Affairs, December 10, 2021]。

   ロシアの軍事侵攻が迫る中で、当事国のウクライナの外相によるこの論考は緊張感に溢れたものとなっている。そこでクレーバ外相は、西側諸国のロシアに対する宥和政策を厳しく批判して、ロシアに対しては十分な抑止により対抗する必要があること、ウクライナ国民は西側の一員となるための強固な意志を有していることを、あらためて確認する。そして、「西側、すなわちアメリカ、EU(欧州連合)、NATO(北大西洋条約機構)は、あまりにも小さなことをあまりにも遅く行っている」「ロシアは虚偽を売り込む天才であり、正当性のない保証と一方的な譲歩の要求はまさにそれである」と批判するのだ。

   このように、ロシアの軍事行動を厳しく批判すると同時に、軍事侵攻の可能性が高まる中でそれを阻止するための実効的な行動をとらない西側諸国にも批判を加える点は、ミュンヘン安全保障会議でウォロディミル・ゼレンスキー大統領が述べた言葉とも重なる。クレーバ外相は続けて次のように論じる。「ウクライナの目標はシンプルだ。それは『強さを通じた平和』である」、と。この概念は、かつて、イギリスのウィンストン・チャーチル首相やアメリカのロナルド・レーガン大統領が好んで用いた表現であった。ロシアと対峙するためには、十分な軍事力に裏付けされた抑止力が不可欠であり、だからこそウクライナはNATO加盟を求めているのだろう。平和の蜃気楼を求めて、弱さと恐怖から一方的な譲歩を繰り返すことは、ロシアのさらなる欲望に繋がる。この指摘は、まさに、ロシアの隣国として長年困難な関係を調整してきたウクライナからの、切実な訴えである。

 フランス人外交官で、政府内で原子力政策の分析も担当していたメラニー・ロスレによる『ルモンド』紙への寄稿論文では、このウクライナ危機は核拡散問題としての性質も含まれていることを強調する[Mélanie Rosselet, “La crise ukrainienne a aussi une dimension nucléaire(ウクライナ危機には核問題としての側面もある)”, Le monde, February 2, 2022]。

   すなわち、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はあえて言及を避けているが、1994年のブダペスト覚書でウクライナが国内に配備されている核戦力を放棄する代わりに、ロシアなどの署名国がウクライナの主権と領土を保全する約束をしたことを想起すべきだという指摘である。さらにロスレは議論を進めて、ウクライナと台湾の危機は、ロシアと中国という核兵器を保有する2つの大国との正面での対峙という点で、これまでとは異なる新しい危機だとも指摘する。

   実際、これまで以上に非核国は核兵器を保有する同盟国の核の傘に依存せざるを得ないことと、そして権威主義体制の方が民主主義体制よりも核兵器の使用に対してのハードルが低いことなど、新しい状況が生まれていることを認識せねばならないだろう。

■国際協調への安易な期待

 そもそもこのような危機が生じた原因として、ハーバード大学教授で国際政治学者のスティーブン・ウォルトは、国際協調に安易に期待してきたこれまでのリベラリストの楽観主義的な幻想を批判する[Stephen M. Walt, “Liberal Illusions Caused the Ukraine Crisis(リベラルな幻想がウクライナ危機をもたらした)”, Foreign Policy, January 19, 2022]。このような「巨大な悲劇は、回避することが可能であった」、すなわち「アメリカや、その欧州の同盟国が、傲慢さや、希望的憶測、そしてリベラルな理想主義に溺れることなく、リアリズムの中核的な分析に基づいていれば、このような現在の危機は勃発しなかったであろう」というのである。軍事力を重視するリアリストの立場から、これまでもしばしばリベラリズムの国際政治理論に依拠した外交政策論を批判してきたウォルトは、「世界は、そのような誤った世界政治の理論に依拠していたことによって、巨大な対価を支払うことになったのだ」と述べている。

 たしかに冷戦後の西側諸国では、自由民主主義のイデオロギーが勝利を収めて、冷戦後にアメリカを中心とした国際協調体制をグローバルに拡大していくことが可能だというような傲慢さを示していた。民主主義や資本主義が世界中に広がっていくことに疑念を抱かずに、ロシアや中国も同様の軌跡を辿ることになるだろうと楽観視していた。リアリズムの理論に依拠して、ロシアや中国が冷戦後の世界でも自らのパワーや利益を拡大し、自国の周辺に勢力圏の確立を目指すと想定していれば、異なった展開を見ることがあったかも知れない。本当に「巨大な悲劇は、回避することが可能であった」かどうかは、歴史の後知恵であって判断が難しいが、冷戦後のヨーロッパではあまりにも国際秩序の将来について楽観的であったことは事実であろう。

   日本でも同様に、冷戦終結によってパワー・ポリティクスの時代が終わり、リベラルな国際協調と国際統合を基礎とした新しい時代に入ったという認識が浸透していた。そのような楽観主義が、ロシアや中国の軍事行動を冷静に分析する目を曇らせていたのかも知れない。

■EUを相手としないプーチン

 パワー・ポリティクスの論理に基づいて対外行動をとるプーチン大統領が、軍事能力が大きく劣る欧州諸国と真剣に交渉する意図がないということは、深刻な問題だ。ジャーマン・マーシャル・ファンド副理事長のトーマス・クライネ=ブロックホフに対するインタビュー記事は、そのような欧州安全保障の問題を的確に抽出する[Sylvia Wörgetter and Thomas Kleine-Brockhoff, “Putin Does Not Take Europe Seriously(プーチンはヨーロッパを真剣に相手にしていない)”, German Marshall Fund, January 14, 2022]。

   クライネ=ブロックホフによれば、「ウラジーミル・プーチンは、欧州連合をバイパスしており」、真剣に協議する意図を持たない。というのも、「彼は自らが一つの勢力圏の指導者だとみなしており、彼の考えでは、もうひとつのほかの勢力圏の指導者、すなわちアメリカ大統領のジョー・バイデンとの会談を求めている」からだ。軍事力の規模のみで国際政治のランクを考えるプーチンにとって、平和主義的な思考からの戦争回避の希望や、国際協調の希望を求めるフランスやドイツは、重要な交渉相手とはみなされていないのだ。

 アメリカにおける最も影響力のあるロシア専門家の一人であり、トランプ政権で欧州・ロシア担当として国家安全保障会議で勤務したフィオナ・ヒルは、長年プーチン大統領の行動を分析してきた[Fiona Hill, “Putin Has the U.S. Right Where He Wants It (プーチンはアメリカを思い通りにしようとしている)”, The New York Times, January 24, 2022]。

   そのような実務と学問との双方を知る立場からヒルは、プーチンの行動原理にはつねに意図があり、それはウクライナのNATO非加盟の約束を取り付けて、アメリカの欧州での影響力の後退を要求していることだと述べる。2008年のブカレストNATO首脳会議を受けてプーチン大統領は、アメリカ政府がウクライナとジョージアのNATO加盟への道を開いたとして、怒りの感情を示した。そのうえでプーチン大統領はアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領に対して、「ジョージ、あなたはウクライナがそもそも国家ではないということを理解しないといけない」と述べたという。このときにプーチンは、アメリカがウクライナとジョージアを自らの勢力圏から引き剥がそうとしていることに苛立っていた。そしてヒルによれば、「われわれは、このようになるということを分かっていたのだ」。

 アメリカにおいて中東欧や独露関係について詳しい信頼できるジャーナリストの1人であるアンジェラ・ステントもやはり、「現在のロシアとウクライナの間の危機は、30年をかけて醸成された帰結である」と述べる[Angela Stent, “The Putin Doctrine: A Move on Ukraine Has Always Been Part of the Plan(プーチン・ドクトリン  ウクライナへの侵攻は常に計画の一部であった)”, Foreign Affairs, January 27, 2022]。プーチンはそもそも、独特な国家主権についての認識を有している。完全な主権を有するのはアメリカ、ロシア、中国、インドのみであって、それ以外の国は部分的にしか主権を有さない。だからこそ、上に述べたようにプーチンは「ウクライナがそもそも国家ではない」と語ったのだ。そして、自らの勢力圏が脅かされたときに、ロシアは第二次世界大戦の中心的な戦勝国であるため、武力を行使する権利がある。これが、「プーチン・ドクトリン」である。ステントによれば、「モスクワにとって、この新しい体制は、19世紀の大国間協調に似たものになるであろう」。そして、「それはヤルタ体制の新たな再来となり、ロシア、アメリカ、さらに現在では中国によって、世界を三つの勢力圏へと分割するようなものへと変貌していく」のである。いうまでもなくこれは、日本を含めた国際社会が一般的に理解している国際秩序の認識とは大きく異なり、プーチンはそのような方向へと世界を再編しようとしている。

 プーチンの挑戦に対して、西側の自由民主主義諸国はあまりにも無力である。アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所研究員のクリス・ミラーが論じているように、ロシアに軍事侵攻を思いとどまらせるほどに強力な経済制裁を科すとすれば、それは西側諸国にとっても大きなダメージとなる[Chris Miller, “Russia Thinks America Is Bluffing(ロシアはアメリカがハッタリだと考えている)”, Foreign Affairs, January 10, 2022]。だから、西側諸国がそのような強力な制裁の発動を躊躇するであろうことを、プーチンは知っている。さらに、そのような制裁が実効的なものとなるためには、中国の共同歩調が不可欠となる。だが、現在の中国の姿勢を見る限りは、そのような協力へと動くとは考えがたい。だとすれば、ロシアがウクライナへと軍事侵攻を行った際には強力な制裁を行うというバイデン大統領の脅しは、モスクワから見れば虚勢でしかないのだ。

■強制力を背後にした「外交的解決」

 それでは、外交交渉が挫折して、実際に軍事侵攻が始まった後はどのような展開になるのであろうか。『フォーリン・アフェアーズ』誌で話題となったアレクサンダー・ヴィンドマンドミニク・クルーズ・バスチロスの共著論文は3つのシナリオを挙げた[Alexander Vindman, Dominic Cruz Bustillos, “The Day After Russia Attacks: What War in Ukraine Would Look Like-and How America Should Respond (ロシアが攻撃した翌日 ウクライナでの戦争はどのようなものになるのか、そして米国はどのように対応すべきなのか)”, Foreign Affairs, January 21, 2022]。

   第1のシナリオは、軍事的威嚇を用いながらロシアがウクライナ東部を正式にロシア連邦に編入させるという、強制力を背後にしたロシアによる「外交的解決」である。第2は、ロシア軍による限定的な軍事侵攻の開始である。第3は全面的な軍事攻撃の開始である。この場合にロシアは、短期間で航空優勢と海洋優勢を確立する。そしてベラルーシに駐留するロシア軍が、直接キエフに侵攻して、ウクライナ軍を打破するであろう。その場合にロシア軍は、大統領府などに向けて巡航ミサイルや、短距離弾道ミサイルなどを発射することになる。ロシアの計画通りに事態が進行すれば、ウクライナは破綻国家となり、それもまたロシアの目的なのだ。

 この論文によれば、プーチンの目的は冷戦後の欧州安全保障枠組みを解体して、従来の国際的な合意を根幹から転換することにある。そのために、第1や第2のシナリオでは十分ではなく、第3の全面攻撃のシナリオがもっとも可能性が高いとしている。バイデン政権は、これまで十分な軍事的裏付けがない外交を行ってきたために、危機を抑止する機会を失ってしまった。そのようなロシア軍の全面的な軍事侵攻に備えなければならないということが強調される。

   バイデン政権のウクライナ危機への対応が、十分な軍事的裏付けなく進められてきたことへの批判的な声は、ウクライナ政府の中からもまたアメリカ国内からも聞こえてくる。だが、アメリカの国内世論は必ずしもウクライナの主権や領土を守るためにアメリカが軍事作戦を展開することを求めているわけではない。だとすれば、バイデン大統領が手に持っているカードは限られている。

   たとえば、民主党左派を代表して大統領選挙を戦ったバーニー・サンダース上院議員は、イギリスの左派系『ガーディアン』紙に寄稿して、アメリカがけっしてこの紛争に介入することがないよう、紛争からは一定の距離を置くべきことを強く推奨している[Bernie Sanders, “We must do everything possible to avoid an enormously destructive war in Ukraine(我々はウクライナでの途方もなく破壊的な戦争を回避するために、できることは全てしなければならない)”, The Guardian, February 8]。

   サンダースは、ヴェトナムやアフガニスタン、イラクの戦争を振り返り、戦争の愚かさを論じ、またロシアに経済制裁を科すことでロシアの一般市民にしわ寄せが行くことを懸念する。それゆえ、ワシントンがロシアに対する強硬な政策をとるべきではないと論じている。さらに、これまでのNATOの東方拡大がロシアの安全を脅かしてきた点にも注目して、アメリカ自らが「モンロー・ドクトリン」としてのアメリカ大陸での勢力圏を確保してきたのだから、ロシアが同様に自らの勢力圏を安全保障政策の一環として追求することはやむを得ないとしている。いわば、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を容認する姿勢だ。

   このような主張は、ウクライナを見捨てて、自らが戦争に関与することがないように要望する孤立主義的な発想といえる。そこでは、どのような方法で外交的解決が可能か、具体的に論じられているわけではない。戦争を避けたいという感情は、日本を含めた多くの民主主義諸国の国内世論に、深く浸透しているとみるべきであろう。言い換えれば、戦争を避けたいという感情が強いことを十分に知っているからこそ、プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻作戦が大きな抵抗もなく実現可能と考えているのではないか。ここでのリベラル左派の思考は、自国内における弱者の救済は優先しながらも、国際社会の弱者の救済には大きな関心を寄せないという特徴が見られる。

■「勢力圏」思考に基づく中国の批判

   中国が、ウクライナ危機をめぐってアメリカの政策を批判することは、ある程度予想通りともいえる。たとえば1月28日付の『環球時報』紙の社説では、「ワシントンはウクライナで自分がつけた火を自分で消すべきだ」と題して、危機の原因がアメリカの政策にあると批判する[「社评:华盛顿在乌克兰纵的火,应该自己扑灭(社説:ワシントンはウクライナで自分がつけた火を自分で消すべきだ)」、环球网、2022年1月28日]。アメリカのこれまでの冷戦思考の対外政策がこの危機を煽ったのであり、欧州諸国自らに欧州安全保障問題の解決を委ねるべきだとする。ワシントンこそがウクライナを焚きつけた張本人であり、それにも拘わらずに被害者面をしていると攻撃する。このように、ウクライナ危機をめぐる中国の報道では、ロシア政府の行動を擁護して、すべての責任を直接利害関係がないアメリカに負わせるという特徴が見られる。

   さらには、同様に『環球時報』紙の2月6日付の社説でも、「ウクライナの前線から最も離れたワシントンが、最も戦争に躍起である」と題して、アメリカのウクライナ危機への対応を批判する[「社评:华盛顿离乌克兰前线最远,却对战争最急迫(社説:ウクライナの前線から最も離れたワシントンが、最も戦争に躍起である)」、环球网、2022年2月6日]。そこでは、当事国ではないアメリカが、自らの覇権維持の野心のために戦争を煽り、NATOの存在を正当化していると攻撃する。さらには、それを通じて武器輸出の機会も求めていると述べる。そして、当事国のロシアもウクライナもいずれも戦争を望んではいないと、両国の行動を擁護する。他方でこの社説では、2月4日に行われた中露首脳会談の共同声明を繰り返し参照して、そこでの「国際平和の精神」を高く評価している。極端に偏った論評というべきであろう。

   これらの中国メディアの論調は、現在の中国政府が考える国際秩序観を端的に示すものとなっている。すなわち、アジアでもヨーロッパでも冷戦的思考で危機を煽っているアメリカこそが紛争の原因であり、それぞれの地域での大国である中国やロシアが地域秩序に責任を負うべきなのだ。そこに域外国のアメリカが関与するべきではない。これは勢力圏を確立するための思考といえる。

■垣間見える中ロ間の主張の違い

   ちなみに中国は、ロシアとの関係を強化する一方で、ウクライナとも「一帯一路」構想を通じた経済的および軍事技術的な提携を深めており、どちらかだけを擁護することが難しい。そのため、アメリカを批判することで、ロシアとウクライナの対立からは一定の距離を置こうとしているのだろう。

 そのような中国のウクライナとの結びつきに注目しているのが、英国王立防衛安全保障研究所のジョナサン・アイルによる論考である[Jonathan Eyal, “China keeps low profile in US-Russia conflict over Ukraine (ウクライナを巡る米露の紛争で低姿勢を保つ中国)”, The Strait Times, January 29, 2022]。

   アイルによれば、ソ連の軍需産業の中心であったウクライナにはソ連崩壊後も先端技術を有する企業や研究所が多く残されており、ロシアよりも低価格でソ連製の高い軍事技術を提供することが可能となっていた。それに注目した中国は、ウクライナとの経済的および軍事技術的な提携関係を強めてきた。それゆえ、表面的にはロシアとの共同歩調を取るような姿勢を示しながらも、中国政府は紛争当事国の両者との関係について慎重な立場を繰り返している。たとえば、王毅外相はアントニー・ブリンケン米国務長官との電話会談で、アメリカに対して「緊張を煽り、危機を誇張するようなことは控えてほしい」と言及するに止まっている。中国政府もまた、現在のプーチン大統領の進める戦略がどのような帰結となるのか、必ずしも見通しているわけではないのだろう。

 ウクライナ危機をめぐる国際政治の構図は、あまりにも複雑である。米欧間でこの危機への対応をめぐり一定の温度差や立場の違いが見られるように、中ロ関係においても必ずしも一枚岩とは言い切れない主張の違いがうかがえる。

   より重要なこととしてプーチン大統領がどのようなカードを持っていて、どのような認識を有しているのか、あまりにも不明瞭な領域が大きい。複雑な国際関係と今後の展開をめぐる不透明性ゆえに、この危機が漂流していく方向を展望するのは、きわめて難しいといえる。 (つづく)

*『対ロシアで「ドイツは信頼できない同盟国か」(2022年1・2月-2)』は、こちらのリンク先からお読みいただけます。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
API国際政治論壇レビュー(責任編集 細谷雄一研究主幹)(エーピーアイこくさいせいじろんだんれびゅー)
米中対立が熾烈化するなか、ポストコロナの世界秩序はどう展開していくのか。アメリカは何を考えているのか。中国は、どう動くのか。大きく変化する国際情勢の動向、なかでも刻々と変化する大国のパワーバランスについて、世界の論壇をフォローするアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の研究員がブリーフィングします(編集長:細谷雄一 研究主幹 兼 慶應義塾大学法学部教授)。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)について:https://apinitiative.org/
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