対ロシアで「ドイツは信頼できない同盟国か」(2022年1・2月-2)

ドイツの“弱腰”の背景には、国内の独特な平和主義的世界観ゆえの制約もあるという(2月7日、米ホワイトハウスでの会見に臨むショルツ独首相=左)   (C)EPA=時事
ウクライナ危機にあたって欧州側ではフランスを中心に対ロ「戦略的自律」アプローチも模索された。ただ、その結束は広がらない。特に俎上に載せられたのはドイツの融和姿勢だ。なぜ、欧州の大国ドイツはここまで安全保障で弱いのか。その社会的、歴史的理由に様々な論考が提出された。

*『ウクライナを切り裂くパワー・ポリティクスの刃(2022年1・2月-1)』はこのリンク先からお読みいただけます。

2.危機で混乱するヨーロッパ

 ウクライナ危機が、すでに見てきたように冷戦後の欧州安全保障秩序の再編を促す性質のものだとすれば、欧州諸国がどのような対応をするかが重要な意味を持つであろう。ブレグジットによってEU(欧州連合)から離脱してより大きな行動の自由を得たイギリスや、「戦略的自律」としてアメリカとは異なる対外行動の必要を繰り返し説いてきたフランス、そして政権交代によって今後の外交の方向性がまだ確立していないドイツと、それらの欧州主要国の行動が危機の行方にも影響を及ぼすであろう。

   とりわけ、ウクライナ内戦をめぐりドイツとフランスが中心的な役割を担って、一時的な停戦を求める「ミンスク合意」を締結したゆえに、独仏両国政府の対応は重要な位置を占めている。

■実在しない脅威を言い募る「藁人形論法」

 イギリスの首相ボリス・ジョンソンは、国内政治で世論からの厳しい批判を浴びながらも、ウクライナ危機で積極的な役割を担おうとしている。そもそもイギリスは、欧州諸国の中でもプーチン政権のロシアに対して最も強硬な立場であった。

   米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙においてジョンソン首相は、「英国は中欧の同盟国と共にある」と題する論稿を寄稿して、ロシアの軍事的圧力への懸念を抱える中欧諸国を守るためにも、十分な抑止力を示す必要があると説いている[Boris Johnson, “Boris Johnson: The U.K. Stands With Its Central European Allies(ボリス・ジョンソン 英国は中欧の同盟国と共にある)”, The Wall Street Journal, February 9, 2022]。同時に、抑止のみならず対話を行う必要も指摘して、エマニュエル・マクロン仏大統領のモスクワ訪問と、そこでのプーチン大統領との首脳会談を高く評価する。

   ここで重要なのは、ジョンソン首相が集団防衛条項を基礎にして中欧のNATO(北大西洋条約機構)同盟国を守る必要を説く一方で、ウクライナに対する防衛上の関与については慎重な姿勢を変えていないことだ。だからこそ、ウクライナ政府はそのような欧米諸国を批判するとともに、自らがNATOに加盟する必要をよりいっそう強く訴えているのであろう。

 英国防相のベン・ウォレスは、自らの論考の中でより精緻にイギリス政府の立場を明示している[Ben Wallace, “An article by the Defence Secretary on the situation in Ukraine (ウクライナ情勢に関する国防相からの論説)”, Ministry of Defence, January 17, 2022]。

   ウォレスはまず、NATOの脅威にさらされているというロシアの主張は、実在しない脅威を繰り返すプーチンの「藁人形論法」だとして批判する。NATOは、北大西洋条約第5条に基づく防御的な同盟であって、軍事侵攻がなされた場合に加盟国を守ることを目的とする。軍事攻撃がなければ、NATOがロシアに対して軍事力を行使する必要もない。また、NATOが意図的に東方へ拡大したのではなく、あくまでも加盟を求める中東欧諸国の要望に応えただけである。また、ロシアがNATO加盟国に包囲されていると批判するが、ロシアがNATO加盟国と接する国境は、ロシア国境の全体の6%に過ぎない。これではロシアがNATOに包囲されているとは言えないであろう。核戦力を含む強大な軍事力を有するロシアが、小国であるバルト三国と国境を接することで、それが脅威になっているとは言えないはずだ。

 これらに加えて、ウォレス国防相もその他の論者と同様に、ロシアもまた1994年のブダペスト覚書の署名国として、ウクライナの主権や領土を保全する義務を負うと論じている。さらには1997年のロシアとウクライナの間の友好条約でもロシアはウクライナ国境の尊重を約束したと指摘、そして歴史を遡り、プーチン大統領が主張するウクライナとロシアが歴史的に一体であったという主張も事実に即していないと批判する。ロシアは情報戦、心理戦を戦っており、われわれはそのようなロシアの主張を安易に鵜呑みにしないよう注意すべきだ。ウォレス国防相の論考は、そのような警鐘を鳴らしている。

■広がらない「戦略的自律」への共感

 フランスのシンクタンク、モンテーニュ研究所のミシェル・デュクロジョルジーナ・ライトによる論考は、エマニュエル・マクロン大統領のロシアに対するアプローチを肯定的に評価する[Michel Duclos and Georgina Wright, “Macron’s Proposals On Russia Could Be Good For The West ( マクロンのロシアに対する提案は西側にとって好材料となり得る)”, Institut Montaigne, January 25, 2022]。

   現在、EU理事会議長国として、フランスがこの問題でイニシアティブを示している理由は、ヨーロッパの問題はヨーロッパが解決すべきだと考えているからだ。それは必ずしもアメリカを排除することを意味せず、マクロン大統領も大西洋主義の立場にある。ロシアが軍事侵攻を開始した場合には、マクロン大統領はけっしてモスクワに駆けつけてプーチン大統領と会談するようなことはせずに、きっとEUとしての共通の立場を示すために努力することであろう。大西洋主義としての米欧協調を基礎として、アメリカ政府とも十分に調整しながら、マクロン大統領はヨーロッパの「戦略的自律」を摸索しているのだ。

 他方で、仏『フィガロ』紙の外交担当副編集長のイサベル・ラセールは、ウクライナ情勢をめぐりなかなか結束を示せない欧州諸国の問題点と、これからアメリカがよりいっそうインド太平洋に軸足を移すことでヨーロッパが「孤立」する懸念を示している[Isabelle Lasserre, “Face aux périls, les Européens seront-ils bientôt seuls?(ヨーロッパ人はやがて危機に直面し、一人になってしまうのだろうか)”, Le Figaro, January 14, 2022]。

   そもそもヨーロッパ諸国は「戦略的自律」というスローガンとは裏腹に、ウクライナ危機への一致した共通の立場を示せていない。また独仏両国は、ウクライナのNATO加盟の要望に対して、どのように対応するか明確な立場を有しておらず、中東欧諸国はロシアの脅威に対してより強硬な姿勢を示している。本来は、米ロ対立が激化する中で、ヨーロッパ自らが一定の解決策を自律的に摸索して、提示するべきであった。

   確かにロシアが突きつける挑戦に対して、NATOの同盟国間での結束は強まっている。だが、マクロン大統領の唱える「戦略的自律」の立場への共感は、欧州諸国間で広がっていない。またバイデン政権のアメリカは、内向きの国内世論の影響もあり、積極的な軍事関与を避ける姿勢が明瞭である。これらの西側諸国の問題こそが、プーチン大統領が積極的な軍事行動を選択する温床となっているのかもしれない。

 さらに重要な問題として、イギリス下院の外交委員会委員長のトム・トゥーゲンハットによる論考の中で、プーチン大統領による西側の政治エリートたちに対する利益供与が大きく浸透している実情が論じられている[Tom Tugendhat, “Russia’s other European invasion(ロシアによる別口の欧州侵略)”, Atlantic Council, January 14, 2022]。たとえば、ドイツのゲアハルト・シュレーダー元首相らはロシアの石油会社や鉄道会社の役員を務めることで報酬を得ている。汚職で有罪判決を受けた元イタリア議員のルカ・ヴォロンテの件も同様に、イタリアの対ロシア政策を歪める効果を有していた。

   このような民主主義諸国の内部にある脆弱性が、欧州諸国のこれまでの対ロシア政策が弱腰かつ不徹底になる要因であったことも看過すべきではないだろう。

3.ドイツは信頼できない同盟国か

 現在のウクライナ危機に関して、西側諸国の中でもっとも厳しい批判を受けているのがドイツである。ドイツはいまや、EU加盟国の中でも最大の経済力と政治的影響力を持つ大国である。だが、安全保障問題で積極的なイニシアティブを示せないままだ。また、EU加盟国の中では中東欧諸国がロシアの脅威にきわめて敏感であったのに対して、ドイツはエネルギーや経済的相互依存などの理由からも、これまでロシアに対しては宥和的な姿勢を示すことが多かった。はたしてドイツは、ウクライナ危機に直面する中で、本当に信頼できる同盟国なのだろうか。

■ショルツの弁明

 12月8日に首相に就任してから最初の訪米となったオーラフ・ショルツ独首相は、ウクライナ問題に関して『ワシントン・ポスト』紙とのインタビューを行っている[Souad Mekhennet, “Scholz says response to Russia will be ‘united and decisive’ if Ukraine is invaded(ショルツ、もしウクライナが侵攻された場合のロシアへの対応は「団結し、決定的なもの」になると言う)”, The Washington Post, February 6, 2022]。

   そこでショルツ首相は、ドイツが「信頼できない同盟国」と批判されていることについて反論する。すなわち、ドイツはウクライナに対して最大の経済支援を提供しており、防衛予算の面でもヨーロッパ大陸最大の予算を割いている。また、リトアニアにドイツ連邦軍の兵力を派遣し、ルーマニアにも戦闘機を駐機させていることなどを例に挙げて、これまでドイツが一定の貢献をしてきたことを強調する。

   またウクライナに対して「ヘルメット5000個」を送りながら武器を送ることを避けたことへの批判についても、それがウクライナからの要請であることや、武器輸出規制においてそもそも国内法的な制約があることを説明した。そしてドイツが今後も大西洋でのパートナーシップを強化していく確固たる意志を示し、ヨーロッパにおけるアメリカの最も重要な同盟国としてより一層絆を強めていく意向を明らかにした。

 だが、そのようなショルツ首相自らの弁明とは裏腹に、アメリカ国内ではやはり、ウクライナ危機に対するドイツの姿勢は曖昧であり、消極的とみられている。

   たとえば、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙では、ジャーナリストのトム・ローガンが、「ドイツは信頼できる同盟国ではない」というタイトルで、ロシアからの天然ガスの輸入が対ロシア制裁での大きな障害となっており、ロシアに対する厳しい措置をとることへドイツが抵抗してきた現実を批判する[Tom Rogan, “Is Germany a Reliable American Ally? Nein(ドイツは信頼できる同盟国ではない)”, The Wall Street Journal , January 23, 2022]。たとえば、ウクライナへの武器の提供や、エストニアからウクライナへの武器提供を阻止しようとしたり、イギリスからウクライナへと対戦車用兵器の輸送をする際にドイツ上空を迂回せねばならなかったりと、あまりにロシアに対して弱腰の対応をしている事例を挙げて批判するのだ。そして、バイデン大統領はドイツを最も重要な同盟国の一つに挙げたが、このようなドイツ政府の行動が続くようでは説得力に欠けていると論じる。

 ドイツの対ロ制裁への消極姿勢に対する批判は、イギリスからも聞こえてくる。『フィナンシャル・タイムズ』紙の代表的な政治コラムニストであるフィリップ・スティーブンスは、「プーチンがウクライナを脅かす中、ドイツは西側の兵力規模を縮小させている」と題するコラムを寄せて、ウクライナ危機に対してドイツが適切な対応をしていない現状を説明する[Philip Stephens, “As Putin menaces Ukraine, Germany is disarming the West(プーチンがウクライナを脅かす中、ドイツは西側の兵力規模を縮小させている)”, Inside-Out, political commentary from Philip Stephens, January 20, 2022]。

   スティーブンスによれば、そのようなドイツの消極的な姿勢は、第二次世界大戦で2500万人のソ連国民が独ソ戦の犠牲になったことへの贖罪意識や、ロシアへの地理的近接性、さらには冷戦後に平和主義的で楽観的な国際秩序観が浸透して厳しい現実を直視しようとしないドイツ国内の政治エリートの認識などが主な要因だという。さらには天然ガスが必要だという利己的な経済利益の追求が、プーチン大統領の武力による威嚇に対して弱い対応しかできない理由となっている。ロシアの軍事侵攻に抵抗しないことで、天然ガスのロシアからの輸入や技術製品の輸出によって得られる短期的な利益よりもはるかに大きな不利益をドイツは被る。というのも、現在の欧州安全保障秩序が崩壊することによって、民主主義や法の支配、人権という規範が大幅に後退すれば、それはドイツにとっての巨大な危機となるだろうからだ。

■「戦争と平和」二分法思考ゆえグレーゾーンに対応できず?

   ドイツ外交政策評議会の研究部長のクリスティアン・メリングクラウディア・マヨールは、ドイツが信頼できないパートナーと見なされる理由を以下のように説明している[Christian Mölling and Claudia Major, “Germany in the 2022 Ukraine Crisis(2022 年ウクライナ危機の中のドイツ)” , DGAP Commentary, January 31, 2022]。

   ショルツ政権は安全保障政策の十分な準備がないまま政権に就いており、連立政権のパートナーや同盟国などに、明確な政策を提示することが難しかった。また、現在のドイツの危機管理政策は、戦争を回避することと、自らの経済利益を守ること、そして相手との対話に力点が置かれているため、今回のような軍事侵攻の危機には十分な対応ができないという。さらには、ドイツは現在においても戦争と平和を二分法的に考えているために、ハイブリッド戦争やグレーゾーンでの軍事行動への対応、非軍事的手段によるサイバー攻撃や偽装工作には適切に対応できていない。ドイツ国内でも、安全保障の専門家などからそのようなドイツ政府の消極的で受け身の対応には厳しい批判が見られることは留意すべきだ。

   他方で、ドイツのキール大学セキュリティポリシー研究所研究員のマルセル・ディルズスは、そのような批判をドイツが受ける理由として、「信頼できない同盟国」であったり、「モスクワに積極的に協力し」たりしているからというよりもむしろ、ドイツには独特な平和主義的な世界観が広がっており、国内からの圧力によって政府はそのような判断と行動をせざるをえないのだと説明する[Marcel Dirsus, “Why Germany behaves the way it does(ドイツはなぜそのように行動するのか)”, War on the Rocks, February 4, 2022]。

   ディルズスによれば、軍事力行使への強い嫌悪感や、「抑止より対話」を重視する政治文化が、米英とは異なるアプローチをドイツが選択する要因になっている。また天然ガスのパイプラインであるノルドストリーム2の中止やウクライナに対する武器供与については、国内から強い反発があるゆえに、政府はそのような判断を行うことが難しいのだ。

   同時にディルズスは、ショルツ政権はこれまでの政権よりも「価値観外交」として西側の規範や価値を擁護する対外政策を前面に押し出しているゆえ、次第にドイツ人の考え方にも変化が生じるであろうと予期している。いずれにせよ、EU最大の国家であるドイツが、今回のウクライナ危機に実効的な対応ができていないことは不幸である。 (つづく)

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
API国際政治論壇レビュー(責任編集 細谷雄一研究主幹)
米中対立が熾烈化するなか、ポストコロナの世界秩序はどう展開していくのか。アメリカは何を考えているのか。中国は、どう動くのか。大きく変化する国際情勢の動向、なかでも刻々と変化する大国のパワーバランスについて、世界の論壇をフォローするアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の研究員がブリーフィングします(編集長:細谷雄一 研究主幹 兼 慶應義塾大学法学部教授)。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)について:https://apinitiative.org/
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