「マルコス新政権」の対中接近には限界も:幻に終わった「サラ・ドゥテルテ国防大臣案」と国軍の存在感

執筆者:高木佑輔 2022年5月30日
タグ: 中国
エリア: アジア
ボンボン・マルコス新大統領とサラ・ドゥテルテ新副大統領(C)EPA=時事
フィリピンではマルコス新政権の発足に向けて閣僚人事に注目が集まる。国防大臣兼務を望んだドゥテルテ新副大統領は教育大臣に任命される見通しだ。彼女が国防大臣ポストから外れる背景には、過去幾度もクーデタ企図で政権を脅かす一方、中国による懐柔への盾ともなってきた国軍の存在が作用している。

 

 2022年5月9日に行われたフィリピン大統領選挙の結果、かつての独裁者フェルディナンド・マルコスの長男フェルディナンド・ボンボン・マルコスが大統領に、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の長女サラ・ドゥテルテが副大統領に当選した。

 ボンボン・マルコスの得票が5割を超えたことは歴史的な意味を持つ。1986年以降の大統領選挙では、常に複数の有力候補が競り合い、単独過半数といえる5割を超えた候補はボンボン・マルコスが初めてである。人気があると言われたドゥテルテ候補ですら、4割に留まった。正副大統領を別々に選ぶ選挙制度のため、同じ陣営に属する正副大統領が就任することもまれである。1986年以降の7回の選挙のうち、同じ陣営に属する大統領と副大統領が当選したのは今回で3度目である。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
高木佑輔(たかぎゆうすけ) 政策研究大学院大学(GRIPS)准教授。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位修得退学。博士(法学)。フィリピン共和国デラサール大学助教授、在フィリピン日本大使館専門調査員等を経て現職。GRIPSでは東南アジアおよび新興国の政治に関する授業と論文指導を担当。主な著書にCentral Banking as State Building: Policymakers and Their Nationalism in the Philippines, 1933-1964. (National University of Singapore Press, Kyoto University Press, Ateneo de Manila University Press, 2016)などがある。
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