「平和構築」最前線を考える (42)

キッシンジャーがダボスで語った新たなウクライナの「正統性」と欧州の「均衡」(下)

執筆者:篠田英朗 2022年6月25日
エリア: 北米 ヨーロッパ
ゼレンスキー大統領(右)のロシアへの抵抗が「新しい正統性」をもたらした、とキッシンジャー氏は従来の見解を「修正」した (C)AFP=時事
「正統性」と「均衡」の両建てで国際秩序は維持される――。そうした一貫した世界観のもと、キッシンジャー氏はウクライナがこの戦争で新たな正統性を得たことに注目する。新たな正当性は必然的に、新たな均衡を伴うだろう。一貫性のもとでの「修正」を忌避しないというこのキッシンジャー氏の示唆を、われわれは受け止める必要がある。(前編はこちらのリンク先からお読みいただけます)

「正統性」と「均衡」を重んじながら、ロシアとウクライナの関係について論じる姿勢は、過去のキッシンジャー氏の言説から論理的に推察することができるものだ。ただし、実はキッシンンジャー氏は他の著作において、より具体的に、現代的なロシアとウクライナの関係について語っていた。

大著『外交』に記された民主化への懐疑とロシアの根深い拡張主義

 冷戦終焉直後に出版された大著『外交(Diplomacy)』(日本経済新聞出版)執筆時のキッシンジャー氏にとって、ソ連崩壊後のロシアの行方は、大きな問題の1つであった。そこでキッシンジャー氏は、「ロシアの歴史の大部分において、ロシアは常に拡張の機会を探し求めていた」ことを重視しながら、考察を進めた(『外交』(上)14頁)。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛 社会
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
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