「平和構築」最前線を考える (41)

キッシンジャーがダボスで語った新たなウクライナの「正統性」と欧州の「均衡」(上)

執筆者:篠田英朗 2022年6月24日
エリア: 北米 ヨーロッパ
ダボス会議にオンラインで登場し、ウクライナ情勢について語ったキッシンジャー氏(「世界経済フォーラム」HPより)
波紋を広げたダボス会議でのキッシンジャー氏の発言は、「領土分割」が真意ではない。ウクライナに関する「中立的な国家」という自身の認識の修正と、ロシアを排除した欧州の均衡は成立しないという今後の秩序構築が論点だ。(後編はこちらのリンク先からお読みいただけます)

 先月開催された「世界経済フォーラム」(ダボス会議)において、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官がウクライナ情勢について語ったことが話題になった。キッシンジャー氏がウクライナに「領土の割譲」を迫った、と報じられたのである。これにウクライナのドミトロ・クレーバ外相やウォロディミル・ゼレンスキー大統領が反発する発言を行ったため、話題が増幅した。

 報道だけを見ると、あたかもキッシンジャー氏が野心的に論争的な発言をしたかのようだが、実際の当日のやり取りの書き起こしを読んでみると、むしろだいぶ違う印象を受ける。キッシンジャー氏が領土について直接ふれた経緯はない。また同氏が用いた表現も、かなり含意のある複雑なものだ。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛 社会
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
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