「中東依存度95%」で迎える「石油危機50周年」のエネルギー地政学

執筆者:小山 堅 2023年1月11日
エリア: 中東
各国要人の「中東産油国詣で」が続く[中国・アラブ首脳会合で握手する中国の習近平国家主席(左)とサウジのムハンマド皇太子=2022年12月9日](C)AFP=時事[AFP PHOTO / HO / SPA]
ウクライナ危機が国際エネルギー情勢を揺さぶり続ける。最大の供給地・中東の存在感は高まるが、サウジアラビア、カタール、イランといったエネルギー大国では不安定化に繋がる問題・課題がひときわ現実味を増してきた。奇しくも「石油危機50周年」の2023年、日本は原油の中東依存95%前後というかつてない脆弱性を抱えながらの船出となる。

 ウクライナ危機によって激動の年となった2022年を経て、新たな年、2023年が幕を開けた。国際エネルギー情勢はウクライナ危機の影響の下、引き続き極めて不安定で不透明な状況が続くが、今年は第1次石油危機の発生から50年という節目の年でもある。

 現時点で、国際エネルギー市場激震の震源地は引き続きウクライナ危機であり、ロシア問題であることは論を俟たない。しかし、ウクライナ危機が深刻化する中で、国際エネルギー情勢の安定を左右する最大のエネルギー供給地であり、最大の供給余力の保有国を含む戦略的要地である中東の重要性は高まる一方となっている。その象徴的な出来事が日本の原油輸入に占める中東依存度の上昇である。

ロシアの代替は中東のみ

 2022年7月の日本の原油輸入における中東依存度は過去最高の98%を記録した。原油輸入のほぼ全てを中東に頼る形となっている。その後も中東依存度は月次ベースで95%前後での高止まりを続けている。

 日本の中東依存度は、1967年度に91.2%で最高値を付けた後、第1次石油危機後は輸入源多様化政策推進の効果もあって漸減し、1987年度には68%まで低下した。しかし日本の石油需要が増加し始め、重要な代替供給国であった中国やインドネシアが石油純輸入国化して輸出余力を失うと再び中東依存度は上昇、近年は90%前後の推移となっていた。そこでウクライナ危機が発生、日本もG7(主要7カ国)メンバーとしてロシア原油の禁輸方針を決定した結果、その代替供給源は中東に見出すしかないという状況になった。それが前出の98%依存といった結果に結びついているのである。

 また、中東の重要性は原油価格の安定に対する消費国の期待と軌を一にして大きく高まっている。OPECプラスの会合とサウジアラビアの動向がこれほど世界の耳目を集めることは久しぶりの事態である。ジョー・バイデン米大統領は原油価格引き下げのため、わざわざサウジアラビアを2022年7月に訪問し原油増産を働きかけた。また、昨年末の中国・習近平国家主席によるサウジアラビア訪問など、主要国の要人による「中東産油国詣で」が、中東の重要性を改めて世界に印象づける事態となっている。

バーゲニングパワーを増すサウジ

 ウクライナ危機の陰で高まる中東の重要性は、石油危機50年の今年、さらに世界の関心を集めることになろう。しかし問題は、その中東において、今後の国際エネルギー情勢の不安定化の種となる様々な問題・課題が現実のものとなりつつあることだ。

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執筆者プロフィール
小山 堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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