流出文書が示唆する「クレムリン内紛」と「米の二枚舌外交」

執筆者:名越健郎 2023年4月20日
エリア: 北米 ヨーロッパ
機密文書の流出発覚後、ペンタゴンでウクライナのデニス・シュミハリ首相(左から2人目)を迎えたロイド・オースティン米国防長官(右から2人目) 4月12日撮影 ©EPA=時事
英誌エコノミストが「スノーデン事件と並ぶ今世紀最大の諜報リーク事件」と呼ぶ、米政府の機密文書流出事件。クレムリン内部の不協和音、精鋭スペツナズの壊滅的損失など、ロシア側にとって不都合な情報が含まれる一方、ウクライナ支援をめぐる米国の“二枚舌外交” を疑わせるものでもあった。

 ロシア・ウクライナ戦争の分析を含む米政府の機密文書が、21歳の空軍州兵によってネット上に流出した事件は、米側のオウンゴールとしてロシアでも大きく報道された。

 ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「信憑性に疑問があるが、慎重に調査する」と表明。セルゲイ・リャブコフ外務次官は「本物かどうかは不明だが、米国がウクライナ戦争の当事者であり、ロシアにハイブリッド戦争を仕掛けていることを示した」と述べた。国営テレビの討論番組でも、侃々諤々の議論が展開されている。

 ロシアにとっては、ウクライナ軍や北大西洋条約機構(NATO)の動向を探る上でプラス面もあるが、ロシアの内情を暴かれた点でマイナス面も少なくない。

 流出した100本以上の機密文書から、ロシア絡みの興味深いインテリジェンスとその波紋を探った。

クレムリンの暗闘を察知

 米紙「ニューヨーク・タイムズ」(電子版、4月13日)によれば、漏洩された米情報機関の機密文書の中に、ロシアの情報機関と軍の間で死傷者数をめぐって対立があったことを示す内容があった。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
名越健郎(なごしけんろう) 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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