プーチン政権「対アフリカ関与」の橋頭堡、ワグネルの知られざる利権と影響力の行方

「プリゴジンの反乱」は変化をもたらすか?

執筆者:小林周 2023年7月13日
タグ: 紛争 ロシア
エリア: アフリカ
2022年2月19日、フランス軍のマリ撤退を祝うデモで「Thank you Wagner」と書かれた横断幕を掲げる人々[マリ・バマコ](C)AFP=時事
中央アフリカ一国だけで年間利益10億米ドルとされるワグネルの利権は、諸国から治安維持などの見返りとして手に入れた天然資源の採掘権を基盤にしている。その戦闘部隊に注目が集まりがちなワグネルだが、むしろアフリカでの活動や「プリゴジンの反乱」による影響は、多様な関連企業が提供するネットワークやロジスティクス能力に注目しておく必要がある。

 6月23日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンが、約8000人の部隊を率いてモスクワに向け進軍した。翌24日には、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介によりモスクワへの進軍を停止したが、プリゴジンの去就は不明、ワグネルはベラルーシで大規模に再編成を進めているとされる。

 状況は依然として流動的だが、これまでワグネルが精力的に活動してきた中東・アフリカ諸国の情勢に与える影響が注目されている。本稿では、アフリカにおけるワグネルの活動を簡単に整理したうえで、6月23日反乱の影響について検討したい。

アフリカにおけるワグネルの活動:シリアやリビアをハブとして2017年頃から進出

 ワグネルは2017年頃からアフリカ諸国に進出し、現地政府との契約により軍事訓練、武器・軍事ロジスティクス供与、要人保護、対テロ活動、反政府勢力鎮圧などを行なってきた。進出先であるスーダン、リビア、マリ、中央アフリカ、モザンビーク、マダガスカルといった国々は、①政治情勢が不安定であり内戦や紛争が続いている、②中央政府が脆弱であり、国軍・治安機関以外の軍事勢力(反政府勢力、テロ組織など)が活動している、③豊富な天然資源(金、鉱物、石油、ウランなど)を有している、といった共通点を抱えている。

 また、情報工作によって現地の反植民地感情を扇動し、欧米や国連の影響力排除を図ってきた。例えばマリでは、2020年8月の軍事クーデターの数カ月後にワグネルが進出した。クーデターを受けて欧米諸国が支援を控える一方でロシア/ワグネルは関与を強め、マリの軍事政権もワグネルの軍事力を頼るようになった。その後、マリ国内ではSNSやマスメディアを通じて旧宗主国のフランスをはじめとする欧州諸国や国連への反発が高まったが、ロシアの関与が指摘される。

 2022年5月にマリ軍事政権はフランスとの防衛協定の破棄を発表1、その後8月には対テロ作戦に従事してきた駐留仏軍がマリから撤退した。2023年6月30日には、国連マリ多面的統合安定化ミッション(UN Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali =MINUSMA)も期限を迎え、年末までに撤収することが決まった2。米ホワイトハウスのジョン・カービー国家安全保障会議(NSC)戦略広報調整官は、プリゴジンがMINUSMAの活動終了に向けてマリ政府に働きかけたことを把握していると述べた3

 ワグネルはシリアのフメイミーム空軍基地やリビア国内の複数の基地をハブとして利用し、アフリカ諸国に展開してきた。地中海を挟んで欧州の対岸にあるリビアが、ワグネルのアフリカ進出の拠点となっていることを、西側諸国は強く懸念している。2023年1月にはウィリアム・バーンズCIA(米中央情報局)長官がリビアを電撃訪問し、東部を実効支配しロシアと強いつながりを持つハリーファ・ハフタル「リビア国民軍(LNA)」司令官との間で、ワグネルの撤退について協議した。バーンズ長官はハフタル司令官を含む関係者に対し、ワグネルとのいかなる協力関係に対しても明確かつ厳重な警告を伝えたという4。同長官の訪問直後に米国はワグネルを「国際犯罪組織」に指定し、圧力を強めた。なお、リビアへの進出は2019年頃からと見られるが、これはリビア政府との契約によるものではなく、当時リビア内戦に介入しハフタル司令官を支援していたUAE(アラブ首長国連邦)が資金提供を行なったとされる5

出典:各種資料より編集部作成

活動を支える天然資源利権とロジスティクス:ロシア政府・軍に頼らない自律型ネットワークを目指しているとの指摘も

 ワグネルを受け入れる多くのアフリカ諸国は財政難であり十分な支払い能力を有していないことから、同社は治安維持や各種軍事活動の見返りとして金やダイヤモンドといった資源の採掘権を獲得してきた。

 例えば米・戦略国際問題研究所(CSIS)の分析6によると、……

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
小林周(こばやしあまね) 日本エネルギー経済研究所 主任研究員 専門はリビアを中心とした中東・北アフリカ地域の現代政治、国際関係論、エネルギー地政学。慶應義塾大学大学院にて修士号・博士号(政策・メディア)取得。米国・戦略国際問題研究所(CSIS)エネルギー・国家安全保障部、日本国際問題研究所などを経て、日本エネルギー経済研究所中東研究センター入所。2021年4月から2023年4月まで在リビア日本大使館にて書記官として勤務。編著に『アジアからみるコロナと世界』(毎日新聞出版、2022年)、主な共著に『紛争が変える国家』(岩波書店、2020年)、『アフリカ安全保障論入門』(晃洋書房、2019年)など。
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