ロシア「ウクライナ侵略」で高まるリビアの戦略的重要性

執筆者:小林周 2022年5月24日
エリア: 中東 ヨーロッパ
リビア東部のブレガ港(C)AFP=時事
ロシアが内戦に介入してきたリビアでは「2人の首相」が併存する異常事態が生じているが、いずれも表向きはロシアを非難しつつも協力関係は維持する方向で一致している。ウクライナ侵略で苦戦を強いられているロシアにとって、リビアの戦略的重要性はますます高まっているという。

 

 ロシアのウクライナ侵略は様々な形で世界に影響を与えているが、中東・北アフリカ諸国も例外ではない。

 本稿ではリビアに焦点を当てて、大統領選の延期によって不安定化する同国がロシアのウクライナ侵攻に巻き込まれている状況を分析する。この分析を通じて、一見するとロシアとウクライナ(および同国を支援する欧米諸国)の対立からは隔絶されたリビア情勢が、様々な形で結びつき、国際情勢に影響を与えている様相を示す。

「2つの政府」は欧米の支持を求めロシアを非難

 4月7日の国連人権理事会におけるロシアの理事国資格の停止決議において、アラブ22カ国の中で唯一リビアが賛成票を投じたことが注目された(中東諸国としてはイスラエルとトルコも賛成)¹。西側諸国が制裁を含めロシアに厳しい政策を取る一方で、中東諸国は(程度の差はあれ)旗色を鮮明にすることを避けており、シリアやイランのようにあからさまに親露の立場を示す国もある。このような中、湾岸アラブ諸国のように欧米に安全保障面で依存するわけでもなく、ウクライナと特筆すべき友好関係にもないリビアが、国連の場でロシアに対し厳しい立場を示した背景には何があるのか。

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執筆者プロフィール
小林周(こばやしあまね) 日本エネルギー経済研究所 主任研究員 専門はリビアを中心とした中東・北アフリカ地域の現代政治、国際関係論、エネルギー地政学。慶應義塾大学大学院にて修士号・博士号(政策・メディア)取得。米国・戦略国際問題研究所(CSIS)エネルギー・国家安全保障部、日本国際問題研究所などを経て、日本エネルギー経済研究所中東研究センター入所。2021年4月から2023年4月まで在リビア日本大使館にて書記官として勤務。編著に『アジアからみるコロナと世界』(毎日新聞出版、2022年)、主な共著に『紛争が変える国家』(岩波書店、2020年)、『アフリカ安全保障論入門』(晃洋書房、2019年)など。
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