新・日本人のフロンティア (27)

アイルランドを歩いて日本の連邦制を考える

執筆者:北岡伸一 2024年1月3日
カテゴリ:
University College Dublinでの講演の様子(JICA提供、以下同)
1922年の独立後も紛争が続き、ヨーロッパの最貧国の一つであったアイルランドは、近年社会的に大きく変化し、一人あたり所得で世界2位という成長を遂げた。動乱の中をたくましく生き抜いてきた歴史から、日本の連邦制導入を考えてみた。

 私はこれまで世界の118カ国を訪れてきた。これほど行くと、ぜひ行きたいと思う国はだんだん減ってくる。その中で気になっていたのがアイルランドである。そのアイルランドのダブリン国立大学(University College Dublin)で講演をしてほしいという依頼があったので、喜んで行った。アフリカ4カ国訪問の直後の日程だったので、アフリカ旅行とアイルランド行きをくっつけたわけである。こうしてアイルランドが、私の119番目の国となった。

ラフカディオ・ハーンの関心

 アイルランドが気になっていた理由の一つは、ラフカディオ・ハーンである。彼は日本のことを実に深く理解し、愛した人だった。明治大正期、少なからぬ欧米人が、アジアのユニークな文化としての日本や、急速に勃興しつつある日本に対して関心を抱いた。ハーンの場合は、いずれとも異なっていて、それらの奥にある日本の精神的なものに対する強い関心や愛情が基底になっている。彼の主著である『知られぬ日本の面影』(Glimpses of Unfamiliar Japan)というのは、まさに、彼の関心の所在がどこにあったかを示すタイトルとなっている。

 私はかつてカイロで講演をしたとき、学生から、日本のアニメにはなぜいつもゴーストが出てくるのかという質問を受けて、うまく答えられなかったことがある。だいたい、日本のアニメにゴーストが出てくるということが事実なのかどうなのか、よくわからなかったので、答えられるはずがなかった。今にして思えば、日本のアニメ(だけではなく多くの物語)の中に、合理主義で割り切れないスピリチュアルなものが出てくると、イスラム教徒の彼は感じたのだろう。……

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執筆者プロフィール
北岡伸一(きたおかしんいち) 東京大学名誉教授。1948年、奈良県生まれ。東京大学法学部、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、国連代表部次席代表、国際大学学長等を経て、2015年より国際協力機構(JICA)理事長、2022年4月よりJICA特別顧問。2011年紫綬褒章。著書に『清沢洌―日米関係への洞察』(サントリー学芸賞受賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党―政権党の38年』(吉野作造賞受賞)、『独立自尊―福沢諭吉の挑戦』、『国連の政治力学―日本はどこにいるのか』、『外交的思考』、『世界地図を読み直す』など。
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