
周知のとおり、農家は急速に減っている。農林水産省によると、家族経営と法人経営を合わせた「農業経営体」は2010年に168万戸だったのが、2020年には108万戸になった。農家の平均年齢が68歳となり、その実質的な定年とされる70歳近くになっていることから、今後この傾向に拍車がかかるのは必至だ。
三菱総合研究所が公表したマンスリーレビュー2022年12月号の特集「2050年の国内農業生産を半減させないために」によると、農業経営体は2025年に79万戸、2030年に58万戸といった感じで減っていく。2050年には18万戸となり、これは2020年比で84%減だ(図を参照)。
これに伴い、生産力も一気に落ちていくという。2050年は2020年と比べて、経営耕地面積が50%減の163万ヘクタールに、農業産出額が52%減の4.3兆円になるとも見込んでいる。
この予測は、一部のメディアで日本の農と食の危機をあおることに使われた。すなわち、食料の生産が激減して食べものに困る日が来るだろう、と。
この手の言説がまことしやかに流布されるのは、いまに始まったことではない。ただ、これまで一度として喧伝されたような危機が到来したためしはなかった。
零細な農業経営体が激減しても、農業産出額にほぼ影響なし
そもそも農業経営体とともに農業産出額も急速に減っていくというのは、事実に即していない。というのも、いまの農業を支えているのは、これから一気に辞めていく高齢で零細な農家たちではなく、農業で経営を成り立たせている一部の農家たちだからである。
2020年の農業産出額を例に、そのことを説明したい。……

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