「令和の米騒動」と「減らない兼業農家」と「高温耐性品種の進まぬ普及」の悩ましき因果

執筆者:窪田新之助 2024年9月6日
タグ: 日本
エリア: アジア
2018年に廃止が公表された減反政策は、事実上、転作奨励などの形で続いている[2024年8月27日、東京都江東区](C)AFP=時事
コメがスーパーの棚から消えた。インバウンド需要や南海トラフ地震の緊迫化、2023年夏の高温のせいだという見方が強いが、より直接的な要因として米の作付けが減ったことが見逃せない。ここに、どれだけ生産性が高くても、どれだけ品質がいいコメを作っていても、そうではない農家と同じ割合で減らすべき面積が配分された「一律減反」などの構造問題が加わっている。「令和の米騒動」が起きた背景には根深い歴史的な要因がある。

 農林水産省が7月30日に開いた食料・農業・農村政策審議会食糧部会で配布された「米の基本指針(案)に関する主なデータ等」。この資料に、今回のコメ不足のからくりが概説されている。

 すなわち、2023年産において作柄が平年通りなら、我々が普段食べている「主食用米等」の生産量は669万トンとなるはずだった。ところが実際には661万トンと、8万トン減った。

 これは、思いのほか作付面積が減ったことが影響している。農林水産省は全国の作付面積を125万1000ヘクタールで想定していたが、実際には124万2000ヘクタールと9000ヘクタール少なかった。同省は「農家の高齢化に加え、作付け意欲の減退や飼料用米への転換が拍車をかけた」とみている。コメ卸の関係者は「コメが安いので、転作したのだろう」と付け加える。

コメはパンや麺類よりも“値ごろ感”が生まれていた

 生産量が減ったところに、消費量が増えた。その要因は物価の高騰だ。パンや麺などほかの主食が軒並み値上がりするなか、それでもコメは相対的に値ごろ感がある(図1)。

出所:「米の基本指針(案)に関する主なデータ等」(農林水産省農産局、令和6年7月)、下の図2と図3も同じ

 この「米の基本指針(案)に関する主なデータ等」には、米穀販売事業者が23年に販売した月別の数量について前年同月比の動向も載っている(図2)。これによると前年同月比を下回った月はなく、23年1月から12月の総計では103%に増えた。さらに年が明けてから今年6月までの月別の数量は、前年同月比で104~107%と、より高水準で推移している。

 

 同資料には、総務省「家計調査」から抜粋した、コメとパン、麺類について一世帯当たりの月別の購入数量と対前年同期比も載せている(図3)。23年1月から12月の総計でみると、いずれも購入数量を減らしているものの、コメはパンや麺類ほど対前年同期比で減っていない。コメ、パン、麺類に共通する購入数量の減少傾向は、コロナ禍明けで消費が中食や外食に向かった反動だろう。

 

 以上のようにコメへの志向が強まったところに、訪日外国人数も増えた。直近1年間(23年7月~24年6月)のその数は約3213万人と、対前年比約2.3倍となった。農林水産省は、彼らが一日二食でコメを口にする場合で試算すると、コメの需要量は3.1万トン増えたという。これも、多少影響しているのは確かである。

 こうして需給が逼迫している最中に襲ったのが 宮崎県で8月8日に起きた地震だ。気象庁は初めて、南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震への注意を呼びかける臨時情報を発表した。たちまちスーパーの棚からコメの商品が減り始め、やがて姿を消した。

「高温障害」が要因なのも確かだが……

 ここで、生産量が減った背景に迫りたい。

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カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
窪田新之助(くぼたしんのすけ) ジャーナリスト 1978年、福岡県生まれ。明治大学文学部を卒業後、日本農業新聞に入社。 記者として国内外で農政や農業生産の現場を取材し、2012年よりフリーに。2014年、米国務省の招待でカリフォルニア州などの農業現場を訪れる。 著書に『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』(共に講談社+α新書)、『データ農業が日本を救う』(インターナショナル新書)、『農協の闇 』(講談社現代新書)、『誰が農業を殺すのか』(共著、新潮新書)、『人口減少時代の農業と食』 (ちくま新書)などがある。ご意見や情報のご提供は、以下のアドレスまでご連絡ください。shinkubo1207★gmail.com(★は@に書き換えてください)
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