《業務上横領疑惑でJA兵庫西の元職員が逮捕》共済“自爆”に加え住宅ローン、教育ローンでも営業ノルマ……「複合渉外」担当を追い込む闇
兵庫県警やJA兵庫西によると、業務上横領の疑いで逮捕されたのは元職員の男性(46)。同JA太子支店(太子町)に勤務していた2017年1月から4月、顧客2人の普通貯金口座から払い戻された約290万円の現金を不正に手にした。顧客から「自分の口座から現金が勝手に払い戻されている」と連絡があったことを受け、同JAが2023年11月1日に刑事告訴していた。
同JAは12月1日に記者会見を開き、謝罪した。ほかの口座でも現金が不正に引き出され、被害総額は5000万円以上に及ぶ可能性があることも触れた。ただし、元職員はいずれの容疑も否認している。
現役職員が指摘する「自爆営業の穴埋め」の可能性
記者会見の直後、筆者の携帯電話が鳴った。相手は同JAの現役職員、田中氏(仮名)である。逮捕の一報を受けて、同JAの職員間では動揺が広がっているという。
「逮捕された元職員は頼れる兄ちゃんという感じの人でした。営業の仕方を優しく熱心に教えてくれる面倒見が良い人でしたから。だから、とくに後輩たちがびっくりしています」
田中氏によると、元職員が退職したのは2021年3月末。家業を引き継ぐためだと話していたそうだ。「ところが、実際は横領の疑いが持たれたことからの退職だったようです」。
田中氏は、元職員を一方的に責める気持ちにはなれないという。
「横領したことが事実なら、それは共済事業における過大なノルマのせいだと思うからです。職員の間ではそう噂になっています」
筆者がこれまでたびたび問題提起してきたように、全国のJAは共済事業で職員にノルマを課している。JAにとってはノルマをこなせば、上部団体のJA共済連から「付加収入」という奨励金が入ってくる。それは大きな収益源である。
ノルマは得てして過大であるため、職員は自身や家族が不必要な契約に加入する「自爆営業」を強いられてきた。その負担額は年間数十万円は当たり前で、多い場合には数百万円に達する。とくに共済の営業を担当する職種には、それほかの職種と比べて桁違いのノルマが割り当てられる。JA兵庫西でいうと、共済をはじめ金融商品を専門に営業する「複合渉外」がそれだ。共済以外に教育ローンや住宅ローンの営業でもノルマがあり、できなければ職員がその負担をかぶることになる。
逮捕された元職員は、長らく複合渉外に就いていた。田中氏が証言する。
「複合渉外が共済で自爆営業をしているのは、実感として7~8割くらい。元職員は毎年必ずノルマを達成していました。その実績の多くは、やはり自爆営業だったんじゃないでしょうか。傍から見たところ、派手な生活をしているわけでもない。横領したのが事実とすれば、自爆営業で生じた多額の掛け金に払うためだったのではないかと思います」
過大なノルマは不祥事の元凶
田中氏の推察は、自身の職場での経験に加えて、次のことも根拠になっている。
組合員数が10万人を超える大型農協のJAおおいた(大分市)では、職員が共済契約の貸付制度を悪用し、契約者である顧客に無断で借り受けた金を横領していたことが2020年に発覚した。その犯行は2018年8月3日から2020年3月31日まで計28回に及び、被害総額は983万円だった。……
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