二階俊博元自民党幹事長を会長とする超党派の日中友好議員連盟訪中団が、8月27日から29日の中国滞在中に習近平国家主席と会談できなかったことは、日中関係者の間で衝撃を持って受け止められている。日本政府は、習近平「一強」体制となった現在、日中間の懸案解決のために習近平に直接働き掛ける以外に方法はないと判断している。日中関係には二階氏訪中前日に起こった「中国軍機による初の日本領空侵犯」という新たな火種が加わったが、総理以外に習近平に会える唯一の日本人と見込んだ二階氏まで会談を拒否され、打つ手がない状況に追い込まれている。習近平による意図的な冷遇は、日本の次期総理の対中方針次第では「日本を相手にせず」というメッセージを込めたものである。
「数の力」で日中友好を演出してきた二階氏
二階氏は「習近平に会える最後の日本政治家」と言われた。最も象徴的だったのは、2015年に日中関係が緊張する中、自民党総務会長として3000人の観光関係者を引き連れて訪中し、北京の人民大会堂で開催された「中日友好交流大会」に習近平国家主席が登場したことだ。2017年5月にも、自民党幹事長として習近平が推し進める巨大経済圏構想「一帯一路」国際会議に出席し、一帯一路に協力姿勢を示した安倍晋三総理(当時)の親書を習近平との面会で渡し、習近平を喜ばせた。17年12月、19年4月にも習近平と面会している。
それ以前も、「数の力」で日中友好を盛り上げた。2000年に運輸相として5200人の訪中団を、日中国交正常化30周年の2002年9月には日本から1万3000人の観光使節団をそれぞれ北京に派遣した。
特に2012年9月以降、尖閣諸島の国有化や安倍総理の靖国神社参拝で冷え切った日中関係を立て直した功労者が二階氏であり、習近平は日本政界の大物として丁重に扱ってきた。
礼儀とメンツを無視した冷遇
二階氏は、自民党派閥の政治資金裏金問題で次期衆院選への不出馬を表明しており、今回は国会議員として最後の訪中になる。最近体調を崩して入院していた85歳の老政治家は老骨に鞭打ち訪中したわけだ。これまで日本国内で「媚中」と非難されながらも、日中友好を行動で示した貢献を考えれば、習近平が会談に応じるのが、相手への礼儀とメンツを重んじる中国式の接遇方法だろう。
しかも超党派国会議員による訪中団は二階氏だけでなく、自民党からは、小渕優子選対委員長、森山裕総務会長、小泉龍司法相、公明党の北側一雄副代表、立憲民主党の岡田克也幹事長、社民党の福島瑞穂党首ら、これまで中国との関係を重視してきた「大物」が顔をそろえた。8月28日に会談した相手が共産党序列3位の趙楽際・全国人民代表大会常務委員長という結果に対し、日本側が失望と不満を抱えたのは当然だ。
国会議員を辞めると分かれば、打って変わって冷遇する対応は、政界を引退しても野中広務元自民党幹事長という「老朋友」(旧友)を大切にし続けた2000年代の曽慶紅国家副主席とは比べるべくもない。
米国以上の「反中」と映る日本
ただ以前から中国共産党は、親中派の大物である二階氏の「利用価値」を巧みに見極めてきた。自民党の幹事長や総務会長など要職に就いている際には、統一戦線工作の対象として抱き込み、二階氏を通じ、国際的な批判も強い「一帯一路」などで日本政府の協力を取り付ける意図が明確だった。一方、これまでも無役の時には冷たくあしらう傾向が強かった。
「日本側は客観的かつ正確な対中認識を樹立するよう希望する」――。同じく8月28日に二階氏らと会談した王毅外交部長(中央政治局委員)はこう苦言を呈した。王毅が10年以上前に外交部長に就いて以降、日本側に言い続けている不満であるが、端的に言えば、日本政府の対米追随を批判したものだ。
王毅は二階氏らとの会談直前、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談しており、それが長引いたとして二階氏を約40分間も待たせた。二階氏にすれば、明らかな日本軽視であり、「正確な対中認識」など自分に向かって言う言葉ではないだろうと、屈辱を感じたのではないか。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。