「日本の中の中国人」をどう解釈すべきか――深まる重層的「非対称性」の危うさ

執筆者:城山英巳 2025年3月7日
タグ: 中国 習近平
エリア: アジア
観光客だけでなく、知識人や留学生、富裕層が日本を目指す動きが加速している[中国で春節休暇が始まり、多くの観光客で賑わう銀座=2025年1月29日、東京都中央区](C)時事通信フォト
中国から日本に来る観光客や留学生は急激に増えているが、日本から中国への逆の人の動きは途絶えている。中国の富裕層は旅行で日本の魅力に触れてリピーターとなり、若者は習近平政権下の強権的な空気を嫌って自由な日本での就学・就職を目指す。一方で中国国内の社会的敗者は反日的言説に影響されやすく、中国人の間で対日観をめぐる分断が生じている。日本にとって問題なのは、中国国内で何が起こっているのか、日本人が自らの目で実態を把握する機会が減ってしまうことだ。

 中国の春節(旧正月)に合わせた大型連休(1月28日~2月4日)の期間中、多くの日本人が、街にあふれる中国人観光客の激増を実感しただろう。筆者が生活する札幌でも、札幌駅や繁華街「大通」では至る所から中国語が聞こえ、日本人よりも中国人の方が多いのではと感じる特異な現象が見られた。観光客だけでない。習近平体制が言論統制を強化する中、中国に息苦しさを感じる知識人や留学生、富裕層が日本を目指す動きが加速している。自民党外交部会などでは、日本政府が2024年12月に発表した中国人向け短期滞在ビザ(査証)の緩和措置に批判が強まるが、人的往来を含めた日中関係における二つの「非対称性」を通じ、日本政府や日本人は、「日本の中の中国人」をどう解釈すればいいのか。

日本の対中政策を提言するのは中国人学者?

「近い将来、中国人が日本政府の対中政策を決める事態になるのではないか」

 最近、札幌を訪れた中国の改革派元教授はこう漏らした。

 就職の売り手市場が続き、大学を卒業しても、とくに文系では修士課程や博士課程に進む日本人はほとんどおらず、大学院の研究室は中国人で占められる。その結果、日本の大学・大学院で現代中国や日中関係を研究・教育する教員も中国人が占める割合が増加している。先の改革派元教授の指摘は、日本政府に対中政策を提言する研究者も中国人教授になってしまう、という見方である。

 この指摘は的を射ている部分と、誤認している部分があるが、誤認の方から解説しよう。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
城山英巳(しろやまひでみ) 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。1969年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社に入社。中国総局(北京)特派員として中国での現地取材は十年に及ぶ。2020年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。2010年に『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書)でアジア・太平洋賞特別賞、2014年に中国外交文書を使った戦後日中関係に関する調査報道のスクープでボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書に『中国臓器市場』(新潮社)、『中国 消し去られた記録』(白水社)、『マオとミカド』(同)、『天安門ファイル-極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」』(中央公論新社)、『日中百年戦争』(文春新書)などがある。
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