深圳・日本人児童刺殺とNHK「放送乗っ取り」、中国社会の「反日ナショナリズム」はレッドゾーンに入るのか

執筆者:城山英巳 2024年9月25日
タグ: 中国 習近平 日本
エリア: アジア
9月18日は1931年の柳条湖事件を記念する「国恥の日」とされ、当日は中国メディアやSNSに日本への復讐心をかき立てる声があふれる。刺殺事件はまさに、その日に起きた[深圳日本人学校の校門前に供えられた花束=2024年9月20日、中国・広東省深圳市](C)時事
習近平体制が求心力を高めるために使った「反日」は、フランケンシュタインのように体制自身にとって最大の脅威に育ってしまった。格差拡大が進む中国社会で反日教育を受け続け、大量の日本ヘイト動画に囲まれて暮らす「負け組」が、不満を日本に向けるのは当然とすら言えそうだ。だが、その鬱積に満足できる出口はない。代わって怒りの矛先が向けられるのは習近平体制に他ならず、二つの事件はこの「反日ナショナリズム」の暴走が閾値に近づいていることを示すだろう。

 中国広東省深圳市で日本人学校に登校中だった男子児童(10)が中国人の男に刺殺された事件の背景には、社会への不満を日本にぶつける歪んだ風潮の高まりがある。中国のSNS上には日本人学校などを攻撃する反日動画が拡散している。

 それは、日本やアメリカなど西側を敵視することでナショナリズムを煽り、体制への求心力に利用した習近平国家主席の「強国」路線が生んだ風潮だ。だが、今回の事件を招いた反日ナショナリズムは、捌け口のない鬱積となって体制そのものに向かう可能性もある。それを恐れる習近平指導部は、情報統制を強化し、真相を隠すしかなくなっている。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
城山英巳(しろやまひでみ) 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。1969年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社に入社。中国総局(北京)特派員として中国での現地取材は十年に及ぶ。2020年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。2010年に『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書)でアジア・太平洋賞特別賞、2014年に中国外交文書を使った戦後日中関係に関する調査報道のスクープでボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書に『中国臓器市場』(新潮社)、『中国 消し去られた記録』(白水社)、『マオとミカド』(同)、『天安門ファイル-極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」』(中央公論新社)、『日中百年戦争』(文春新書)などがある。
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