独裁者はなぜ間違えるのか?――中国共産党トップの「認知バイアス」形成プロセス

執筆者:高口康太 2024年10月10日
エリア: アジア
上位10%が資源を独占するという『共産党宣言』から導き出した「九対一の比率」は、毛沢東にとって万能の黄金比となった[2024年9月30日、建国75周年を翌日に控えた記念レセプションで演説する習近平総書記=北京の人民大会堂](C)AFP=時事
毛沢東、習近平の誤った判断はどこから導かれてきたものなのか。「バカだから」だとは考えにくく、「独裁者のジレンマ」も十分な説明になっていない。理解の鍵は中国共産党の秘密主義と情報収集チャネルを丹念に解き明かすこと、つまり中国共産党を一個の「情報システム」として捉えるアプローチにあるのではないか。『中国共産党の神経系―情報システムの起源・構造・機能―』(名古屋大学出版会)の著者・周俊氏へのインタビューを通じて、これらの問題を考えていく。

※この記事は前編『独裁者はなぜ間違えるのか?――「バカだから」では説明できない毛沢東・習近平の判断ミス』から続きます。

独裁者の情報収集術

――さて、ここまでは中国共産党がいかに秘密を守ろうとしたかの話でしたが、続いて中国共産党がいかに情報を収集しようとしたかについて。国政選挙は存在せず、民意調査が原則禁止されている。このような独裁国家のリーダーがいかに民意を推し量るのかは大きな課題です。本書では「報告」「内部メディア」「陳情」「地方視察」という4つの情報収集チャネルを取りあげています。

報告とは、党・政府部局が階級ごとに上層に報告書をあげる制度。

内部メディアとは、新華社や人民日報などの国営メディア記者が下級幹部や民衆が読むメディアとは別に、一部の限られた上級幹部だけが読めるコンテンツを制作していたものです。

陳情とは、一般民衆が投書や陳情局への直接訪問を通して、地方の窮状や役人の不正、法律制度の改善を求める仕組みを指します。

地方視察とは、中国共産党のリーダーが実際に地方を訪問して、自らの目で現地の状況を確かめることを意味します。

周俊:

この4つの情報収集チャネルは中華人民共和国成立前後、まもなくして整備されます。旧ソ連の手法を取り入れたものも多いですが、その場合でも中国にあう形で修正が模索されていきました。とりわけ地方視察は中国的かつ毛沢東的な手法だと思います。スターリンは文書や秘密警察による支配を好んでいて地方視察をほとんどしませんでした。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
高口康太(たかぐちこうた) 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。
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