中東―危機の震源を読む (86)

対テロ戦争の「終わり」と「新たな始まり」

 5月23日、国防大学で演説したオバマ米大統領 (C)EPA=時事
5月23日、国防大学で演説したオバマ米大統領 (C)EPA=時事

 アフガニスタンで、米軍およびNATO(北大西洋条約機構)諸国有志が主導する多国籍軍からアフガニスタン国家治安部門(Afghan National Security Forces:国軍と警察からなる)に、全土での治安権限が移譲された。それと同時に、米高官はターリバーンとの直接交渉を近く開始することを明かした。そしてターリバーン側も「暴力の放棄」を宣言してこれに歩調を合わせている。

 これらの出来事は、2001年の9.11事件を受けてブッシュ政権が開始した「対テロ戦争(war on terror)」がついに終結することを意味する。2期目のオバマ政権は、軍事的な手段を前面に出したブッシュ政権の対テロ戦略の重い荷をようやく肩から下ろそうとしている。しかし米国と国際テロリズムとの闘争そのものが終わるわけではない。新たな現実を認識し、それに適応した新たな対処策を模索している。5月23日のオバマ大統領の国防大学での演説では、国際テロリズムの現状を踏まえた再定義と、新たな対策の方向性が示されている。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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