中東―危機の震源を読む (41)

穏健なアジア・イスラームの可能性と限界を知るべし

執筆者:池内恵 2008年5月号
エリア: 中東 アジア

 三カ月のエジプト滞在を終えて帰国早々、今度はインドネシアのバリ島に赴いた。二億人という世界最大のイスラーム教人口を抱えるインドネシアの中に取り残されたヒンドゥー教徒の島である。空港からウブドに向かう間の車上で、木々のみずみずしい緑色が目に飛び込み、あらゆるところから神々や動物の石像が顔を覗かせる。中東の乾ききった大地の、「偶像」が排された世界から離れて、より馴染み深い土地に帰ってきたことを実感する。 しかし、バリ島はイスラーム過激派ジェマー・イスラミヤによるとみられるテロが二〇〇二年十月、〇五年十月に起きていることからもわかるように、イスラーム世界と異教徒世界の「前線」としてイスラーム主義者から認知される場所でもある。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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