一九九〇年八月二日。 早朝、木本正二は東京の娘からの電話でたたき起こされた。「パパ、大変だよ」「今、会社のテレックスにクウェートの国際空港が爆撃されて閉鎖になっていると入っているけど、そちらは大丈夫なの」 窓から外を覗いたが、フラットの前の湾岸道路は、いつもと変わらない自動車の往来が続いている。 しかし、勤務先の通信省に行くと、鍵がかかっていて入れない。仕方なく引き返すと、また電話が鳴り響いている。娘からだ。「どこに行ってたの。イラク軍がクウェートに攻め込んでいるってニュースが言っているけど、何ともないの」

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