「根絶」と「コスト」

執筆者:伊藤洋一 2001年11月号

 誤解なきように真っ先に記す。テロは絶対に許さないし、私も四年居た大好きなニューヨークの世界貿易センタービル二棟が失われたこと、何千人という尊い命が失われたことには、表現できないほどの悲しみを覚える。アメリカの怒りもよく分かる。 さらに言えば、今から提示する問題に関して私自身、自信を持った結論に達しているわけではない。読んだ方にも考えて欲しいという気持ちで記している。その上で――。 事件以来、私の頭のなかでくすぶり続けている問題がある。一つは今回のテロに関して「テロは根絶すべきだ」といった形で使われる「根絶」という言葉の持つ重みであり、二つ目は日本だけで毎年一万人は亡くなり、世界では何十万人という人が命を落とす交通事故と、今回のテロで死んだ数千人との関係である。なぜテロに関しては簡単に「根絶」という言葉が使われるのに対して、交通事故には我々はこの言葉を使うのを忘れたのか、または敢えて使わないのか。

カテゴリ: カルチャー
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