ボルトン解任前に「CIA」は協力拒否:アフガン和平「歴史的会談」画策したトランプ

「もう働く必要はない」と大統領に言われ、ホワイトハウスを去ったボルトン前補佐官 (C)AFP=時事

 

 ジョン・ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の解任騒ぎ。直接的には、ドナルド・トランプ米大統領が大統領山荘キャンプ・デービッドでアフガニスタン和平会議を開催する計画をめぐって、前補佐官と対立したことが原因だった。

 そもそも、和平会議と言っても、綿密に計画が練られたものではなく、トランプ大統領が9.11テロ18周年の祈念日を前に、思い付いたのが発端。具体的にどれほどの準備作業が進められたかどうか、明らかではない。

 来年の米大統領選挙を前に、目立った成果を上げられないトランプ大統領の窮状を象徴するかのような出来事だった。

アフガン政府と他のテロ組織は不参加

 イスラム教武装勢力タリバンとの和平協議はカタールの首都ドーハで、昨年10月以来9回にわたって行われてきた。米国の代表は、非白人の戦略家としても著名な、アフガニスタン系のザルメイ・カリルザド米和平担当特別代表。

 9月1日終了した協議の後、カリルザド特別代表は、大筋合意に達し、合意文書もできた、と発表した。それによると、タリバン側がテロ行為を慎むことを約束するのと引き換えに、駐留米軍約1万4000人のうち5000人を和平合意後135日以内に削減することで合意した、という。

 2001年以来18年間にわたる米軍の戦闘を終結させ、駐留米軍を最終的に撤退させるのがトランプ大統領の公約。合意が履行されれば、大きい成果となる。

 しかし、協議にはアフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領側は出席しておらず、ガニ政権高官は、合意には情勢を安定化させる措置が含まれていない、と批判していた。

 実際、アフガン国内ではタリバンのほか、国際テロ組織アルカイダや「イスラム国(IS)」がなお活動を活発化させており、タリバンとの合意だけではテロは根絶できないのは明らか。また、テロ行為の有無を検証することも難しい。

 米国内でも、イラクとアフガンで司令官を務めたデービッド・ペトレイアス元米中央情報局(CIA)長官ら元軍人から、安易な合意を批判する声も出ていた。

派手なイベントを夢見た大統領

 米『ニューヨーク・タイムズ』によると、これに先立ち、8月30日にホワイトハウス内のシチュエーション・ルーム(緊急司令室)で和平案の検討会議が行われた。

 ポーランドの首都ワルシャワに出張中だったボルトン前補佐官は、米国人を殺害した連中と一緒に協議しなくても、公約は実行できる、として和平案に反対。カリルザド特別代表の上司にあたるマイク・ポンペオ米国務長官と論争となり、対立した。

 トランプ大統領はその際結論を出さなかったが、会議は続行。後で、和平協議をワシントンでも続けて行い、合意文書を完成させる、という別の案が提案され、大統領はこれに飛びついた。

 大統領は、先の板門店での米朝首脳会談のような世界的注目を集めるイベントにしたいと考えたのだろう。アフガニスタンのガニ大統領もワシントンに招いてはどうかと発言。

 数日後にはタリバンの代表をワシントンだけでなく、キャンプ・デービッドに招くよう提案したという。

 そして9.11テロの式典が行われる3日前の8日にキャンプ・デービッドでひそかに和平会議を開くことになったという。

「自分はネオコンではない」

 しかし、ボルトン前補佐官はキャンプ・デービッドでの和平会議開催にも反対。このため大統領は9日、前補佐官と大統領執務室で話し合ったが、激論となり、解任を決めたといわれる。

 ただ、ホワイトハウス内では、前補佐官あるいは彼に近い高官がキャンプ・デービッド会議開催をメディアに漏らし、報道されたのが、直接的な解任の動機になった、との情報もある。

 トランプ大統領は、アフガンでのテロ事件発生を会議中止の理由に挙げた。しかし、事前に情報が漏れて報道されたのが中止の真の理由かもしれない。

 タリバンの代表も含めた会議というサプライズのイベントを秘密裏に開催し、突然和平合意をブチ上げて、自分の成果を見せつけようとした可能性は十分ある。ワシントン郊外のメリーランド州山中にあるキャンプ・デービッドは数々の歴史的な会談の場所として有名だ。

 ボルトン氏はジョージ・W・ブッシュ元大統領(子)の政権で国務次官、国連大使を歴任した。日本では彼を新保守主義者(ネオコン)とする報道が多いが、彼が来日して日本記者クラブで記者会見、筆者が司会した際、「自分はネオコンではない」と明確に否定した。

 520日前にトランプ政権入りして以後、政権内で北朝鮮に対する先制攻撃を支持したり、イランに対する強硬策を主張、しばしばポンペオ長官と衝突した。

 両者ともタカ派だが、ボルトン氏はネオコンと同様、米軍の対外展開を支持しているのに対して、ポンペオ長官はもともと「ティーパーティー」のグループに所属しており、軍事力行使には慎重な立場だ。

 ボルトン氏は、国務省や議会に自分のシンパのネットワークを張りめぐらし、情報を操るのに長けている。本サイト5月の「インテリジェンス・ナウ」欄でボルトン氏の「情報クッキング」を紹介したように、イラク戦争前には平気で情報をねじ曲げて利用する工作をした(『ボルトンの「情報クッキング」でイラン情勢「一触即発」:トランプ大統領「怒り」の理由とは』2019年5月21日)。

CIA動員案にも欠点ばかり

 アフガン和平案をめぐっては、米軍撤退にあたって、CIAの役割を拡大する計画も一時検討された。

 CIAがアフガン民兵部隊を訓練、指揮して、対テロ部隊として使い、米軍撤退後にアルカイダやISが勢力を盛り返すのを防ぐ、という案だ。

 これに対して、ジーナ・ハスペルCIA長官は反対、協力を拒否した。

 現実に地上でタリバンやアルカイダなどを追撃するためには、空軍機で上空から支援し、監視する作戦が必要となる。また医療支援や爆弾の技術担当者などもそろえる手はずを整えるべきだ、というのがハスペル長官の主張だったという。

 トランプ大統領が中止したアフガン和平会議。これで、アフガン現地では情勢が不安定化し、テロ行為が増加する可能性が懸念されている。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と握手して、ムードだけの北朝鮮「非核化」の進展をブチ上げたトランプ大統領。その手法こそ、いま問い直す必要がある。

 

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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