動画に詠唱のようなBGMーーDXが進むタリバンのPR戦略

執筆者:山田敏弘 2021年9月29日
エリア: 中東
筆者に送られてきた動画にはサーレ第一副大統領の邸宅から押収されたとされるキャッシュが映っていた(筆者提供)
タリバン幹部とやり取りを続けている筆者のもとには、彼らを肯定的に見せる動画が次々に送られてくるという。デジタル技術を駆使するタリバンのPR戦略に迫る。

 

 イスラム原理主義組織タリバンが2021年8月15日にアフガニスタンの首都カブールを制圧してから1カ月以上が経過した。

 筆者はカブールがタリバンの手に落ちる前からタリバン幹部らと接触を続けており、現在もやりとりを続けている。

 そのうちの1人であるスハイル・シャヒーン広報官は、「2001年までのような厳格なタリバン政権が再来するのか」との筆者の問いに、「すべてのアフガニスタン人が参加できる国をつくりたい」とし、「対外的にも繋がりを持っていくつもりだ」と語っていた。

 ところが9月7日にタリバンが発表した閣僚名簿を見ると、タリバン幹部らの顔がずらりと並んでいた。これまで同様の代わり映えしない面子でどのような違いを対外的に見せられるのかは未知数である。(シャヒーン氏は9月21日までにタリバン政権の国連大使に任命された)

 ただ、タリバンには2001年当時とは決定的に違う側面がある。それはデジタルプラットフォームを使ったPR工作だ。

イメージアップの動画を拡散

 再びアフガニスタンを支配したタリバンは、20年前のように競技場で公開処刑をしたり、仏教の遺跡を破壊したりする行為では国民の人心を掌握できず、国際社会からも孤立することを学んだようだ。

 アフガニスタンを再び支配してから、特にデジタル技術を使ったPR戦略を駆使して、ナラティブ(見せたいイメージ)を国内外に向けて作ろうとしている。シャヒーン師の同僚のザビフッラー・ムジャヒード広報官が3名からなるメディア対応チームを立ち上げると明らかにしたのも、大衆や世界へのメッセージの重要性を認識していることの証左だと言える。

 タリバンが訓練した「ジャーナリスト」たちがタリバンの指示のもと、カブールの街頭で人々にマイクを向けてインタビューしたり、その穏やかな様子をリポートしたりする動画を作り、スマホなどで拡散している。もちろん「自由を手に入れた」「変わらない日常生活を過ごせている」という、タリバンを肯定的に見せるナラティブに沿った内容である。編集を加えて詠唱のようなBGMを付けるのが、今タリバンの間で流行しているという。

 タリバンが動画を拡散するのに使っているのは、メッセージングアプリのWhatsAppやTelegram、ソーシャルメディアのTwitterが主だ。ちなみにフェイスブックや動画共有アプリYouTubeは、テロリスト指定されているメンバー(米政府が約10億円の報奨金をかけているシラジュディン・ハッカーニ内相など)がいることもあって、タリバンのアカウントを凍結している。

 タリバン側は、使えるデジタルプラットフォームを駆使してメッセージを拡散させるべく勤しんでいる。Twitterでは、アフガニスタンの主要言語パシュトー語や、隣国パキスタンで使われるウルドゥー語、英語などでメッセージがばらまかれている。

正規軍や治安部隊の士気も低下

 そもそもタリバンがこうしたデジタルプラットフォームを本格的に駆使するようになったのは、2019年頃からだと言われる。そして今回、タリバンが各地を制圧していく中でも、デジタルプラットフォームによるPR作戦は重要なツールになっていた。

 スマホ動画などでタリバンの快進撃や攻撃力を見せつけることで、まだ制圧されていなかった地域で、前政権時のアフガン正規軍や治安部隊の士気が低下した。実際にアフガン部隊が敵前逃亡したケースは非常に多かったが、それにはSNS戦略が奏功していたという。

 北部パンジシール州で続く反タリバン勢力との戦いでも、筆者のところにタリバン関係者からパンジシールを次々に攻略しているという大量の動画が連日送られてきた。対外的にタリバンの実力を見せつけようとしていたのである。

 さらにタリバンが政権を樹立する正当性を示すために、アシュラフ・ガニ前政権の権力者らが汚職によって私腹を肥やしてきた実態も広く拡散させている。

 WhatsAppでタリバン関係者から私に送られてきた動画には、ガニ政権時のアムルラ・サーレ第1副大統領の邸宅から650万ドル相当のキャッシュや貴金属が押収される様子が映っていた。そして「押収されたカネは国の所有物として国庫に入れられた」とのメッセージが添えられていた。

背景にあるISの成果

 こうしたメッセージアプリやTwitterなどは、まだ統制が行き届いていないアフガンの地方などにいる荒々しいタリバンメンバーへの呼びかけにも使われている。タリバン関係者につながる電話番号なども記載され、何か問題があれば連絡するよう促されており、タリバン内部で統制を取るため関係者にメッセージを伝える機能も果たしている。

 地方に行けば識字率もかなり低いため、動画や音声はメッセージの伝達方法としてかなり有効に働いており、タリバン上層部にとっては以前よりメッセージが伝えやすくなっているという。

 筆者とやりとりをしたあるタリバン戦闘員は、WhatsAppでカタコト英語のメッセージを送ってきたが、メッセージの半分ほどは自分がしゃべっているのを録音した音声だった。字を書くのが苦手だからだろう。

 これらの戦略は何年も前からタリバン内部では注目されていた。その背景には、「IS(イスラム国)」がSNS、ウェブサイト、メッセージングアプリなどを駆使し、プロの動画制作者を使ってハイクオリティな映像を制作・拡散することで、支持者の獲得やメンバーのリクルートを行って成果を上げていたことがある。

 国際テロ組織アルカイダや、レバノンのシーア派武装勢力ヒズボラも同様に、こうしたテクノロジーを使うようになっており、タリバンもそこに目をつけたというわけだ。

 一方で、反体制派の炙り出しにアフガニスタン人のフェイスブックなどが使われる可能性も指摘された。ガニ政権時の関係者などのフェイスブックを見れば、その友人などのネットワークがわかる。そのため、フェイスブック側がアフガニスタン向けに、ワンクリックでタイムラインから友人リストなどまですべてを一時的に完全に見えなくできるサービスを始めている。

特殊部隊「バドリ313」のハイテク装備

 ここまでタリバンのPR戦略を見てきたが、他にはどんなテクノロジーを使っているのか。

 最近、タリバンの特殊部隊の存在が話題になった。タリバン内の武闘派として知られるハッカニー・ネットワークが支える「バドリ313」部隊と、タリバン軍事部門の「レッドユニット」だ。

 バドリ313は、米軍が8月いっぱいでカブールの空港を去った後すぐに空港になだれ込んだことで存在が広く知られるようになった。米軍部隊と遜色ない武器や備品を身につけ、高性能な無線などテクノロジーも駆使しているという。

 レッドユニットは少し前から存在が知られていた突撃部隊に近い組織だが、米軍らが使うテクノロジーを搭載した武器を装備して特殊任務に当たっていると言われる。ロシアからも武器を調達して導入しているとの指摘もある。

 加えて、欧米メディアなどで話題になったのが、米軍やNATO部隊とアフガン治安部隊などがテロリストを見つけるために使ってきたアフガン国民の顔認証用の莫大な生体データベースである。そのデータベースがタリバン側に押収されたと見られ、今後どのように「悪用」されるのかが懸念されている。

 もちろん米軍が撤退時に置いていった米軍のテクノロジー搭載機器も手に入れている。アフガニスタンで戦った経験のある元米兵のジム・バンクス米下院議員は、タリバンは850億ドル相当の軍備をアフガニスタン軍から押収したと述べている。言うまでもなく、それらの多くは米軍から提供されたもので、装甲車など7万5000台の軍用車、200機の戦闘機とヘリコプター、銃などさまざまな小型の武器60万点が確認されている。もともと軍閥の警備を担当していたような人たちを雇い入れ、こうした武器を使う訓練を行っているようだ。

 これらの軍備品は維持するのも簡単ではないので、どこまでタリバンにとって有効なものになるのかはわからない。ただ、少なくとも私たちがこれまで見てきたような、伝統的な衣装カミースを着て自動小銃AK-47を持つタリバンの姿とは似ても似つかないような戦闘員も抱えていることがわかる。

 今後も、協力関係にある国から先端技術も取り入れて駆使していくことになるだろう。中国や、良好な関係にあるUAE(アラブ首長国連邦)などとの連携で、上層部を中心にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいく可能性は高い。

 そもそも筆者とタリバン幹部とのやり取りも、メッセージングアプリなどで行っている。シャヒーン師などへのインタビューもビデオ通話アプリを使って行っており、その間に彼らとの通信が止まってしまうようなことが一切ないほどインフラも安定している。

 タリバンのハイテク化はこれからも進んでいくと考えたほうがいいだろう。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
山田敏弘 国際ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィークなどを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のフルブライト研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。帰国後の2016年からフリーとして、国際情勢全般、サイバー安全保障、テロリズム、米政治・外交・カルチャーなどについて取材し、連載など多数。テレビやラジオでも解説を行う。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文芸春秋)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)。近著に、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社)。公式YouTube「山田敏弘 SPYチャンネル」(https://www.youtube.com/channel/UCVITNlkbLneMV-C9FxzMmEA)も更新中
フォーサイトのお申し込み
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top