深層レポート 日本の政治
深層レポート 日本の政治 (232)

「茂木幹事長vs.高市政調会長」の対立先鋭化で「ポスト岸田レース」に異変

2022年4月26日
タグ: 岸田文雄 日本
次期首相レースでは茂木氏が頭一つ抜けたか(C)時事
補正予算編成をめぐっていよいよ先鋭化した茂木幹事長と高市政調会長の対立。麻生氏、安倍氏を後ろ盾にする両者の「ポスト岸田レース」にも異変が生じている。

 

 堅調にみえる岸田文雄内閣の足元で、不協和音が目立っている。ともに「ポスト岸田」を目指す自民党の茂木敏充幹事長と高市早苗政調会長との対立が先鋭化し、緊急経済対策の取りまとめや公明党との協議に支障が生じているのだ。茂木氏は麻生太郎副総裁を後ろ盾にしており、自民執行部内の溝も表面化。次期首相レースの前に、夏の参院選戦略にも影響が出かねない事態に陥っている。

高市氏の頭越しに決まった補正予算編成

「私たちは早く予備費を活用して経済対策を進めたい。本格的な補正予算を編成していたのでは間に合いませんよ」 

 高市氏は4月18日、公明党の竹内譲政調会長と会談し、公明が求める参院選前の補正予算編成は受け入れられないと訴えた。

 6月15日までの通常国会の会期内に補正を仕上げるとなれば、7月に予定する参院選の手前で衆参の予算委員会を開かなければならず、野党に追及の場を与えてしまう。そのため政府・自民は喫緊の物価高騰対策を今年度予算で確保した5兆円の予備費で行い、公明が主張する15~20兆円規模の補正予算の編成は、参院選後に先送りする方向で調整を進めていた。

 しかし茂木氏はその裏で、高市氏に正面から断らずに、官邸や財務省と補正予算の編成が可能かどうかギリギリの調整を続けていたという。

 茂木氏が4月21日、公明の石井啓一幹事長に示したのは、低所得者世帯の子供1人当たり5万円給付や、石油元売り会社への補助金拡充などを盛り込んだ、予算規模2兆7000億円程度の補正予算を編成する案だった。結局、自公は両党の政策責任者を飛び越える形で合意案をまとめ、首相は合意案に沿って補正の編成を指示した。

週1回の「お茶会」

 茂木氏と高市氏は、これまでも子供のような対立を繰り返してきた。年金受給者に1人当たり5000円を給付する案をめぐっては、茂木氏が高市氏に相談しないまま政府や公明側と協議を進め、高市氏が激怒。茂木氏がガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除について公明、国民民主両党の幹事長と協議したときも、高市氏は「私に連絡がない」と不快感を示した。

 こうした高市氏の直訴を受けた首相は、3月28日の自民役員会で「党が採用する議案は政調会の議を経る」とした党則を読み上げ、茂木氏に自重を促す一幕も生まれた。

 両氏は3月末月以降、福田達夫総務会長と遠藤利明選対委員長を交え、党四役の融和を図る「お茶会」を週1回開くようになったが、会合では白々しいやりとりが続いているという。

 出席者によると、会合では、茂木氏が東京・赤坂の老舗洋菓子店から取り寄せたショートケーキやシュークリームで高市氏をもてなすが、話題は高校時代の修学旅行などたわいもない話が中心だ。毎回、遠藤氏が「次回は好物のチョコレートケーキを出して」と頼むものの、茂木氏は「政調会長のお好きなものを」と断るのがパターンとなっている。高市氏に皮肉交じりで対応しているのだ。

広がる安部氏と高市氏の距離

 茂木氏が高市氏の頭越しに政策協議を進めるのは、党内の情勢を冷静に分析している からと分析する向きもある。

 高市氏は昨年の総裁選で安倍晋三元首相の支持を背景に得票を伸ばしたが、最近は安倍氏との距離が広がっているという。安倍氏は昨年11月に党内最大派閥の「清和政策研究会」(安倍派)会長に就任したが、同派を一度出ていった高市氏の復帰をかたくなに拒んでいる。

 もともと派内には、萩生田光一経済産業相や福田氏ら将来首相を目指す候補がおり、彼らは一様に高市氏の派閥復帰に否定的だ。

 最近は政調会長としての高市氏の働きぶりにも疑問符がついているという。就任直後の昨年の衆院選では、党の公約を「党内協議を十分経ず、独善的に書き上げた」(自民閣僚経験者)などと批判が噴出。「安倍氏は次期首相候補として限界を感じつつある」(安倍派閣僚経験者)との見方もある。

「ポスト岸田」を狙う茂木氏にとって、ウマの合わない高市氏はつぶすべきライバルだ。茂木氏は安倍政権時代から安倍氏と個人的な人間関係を築いてきたこともあり、高市氏と疎遠にしているのは、こうした風向きの変化を巧みに利用しているとも言える。

茂木氏と麻生氏の深い関係

 さらに最近の茂木氏は、党内第3派閥の麻生派(志公会)を率いる麻生氏と深い関係を築いており、強気の態度に出られる下支えにもなっている。

 茂木氏は昨秋の衆院選後に幹事長に就任して以来、国政選挙の候補者調整などの懸案はことごとく麻生氏に相談し、了承を得てきた。下手の姿勢には、将来の総裁選出馬をにらみ、麻生派全体の支持を取り付ける狙いも透ける。

 麻生氏は派内で首相候補とされる河野太郎元ワクチン相との折り合いが悪いこともあり、麻生派の側近には「茂木は『ポスト岸田』に近くなった」と評価を口にするという。逆に高市氏は「公明ともまともに話ができずに政権を運営できるのか」などと、苦言交じりに切り捨てている。

 茂木氏は昨年11月に悲願だった派閥会長に就任し、一定の権力基盤を固めた。犬猿の仲だった青木幹雄元参院議員会長はなお「茂木会長は認めない」と息巻くが、現在は側近の石井準一参院幹事長代理を含め、参院側も茂木体制を支える姿勢を見せている。麻生派とは規模を競い合うライバルではあるが、岸田政権を中心で支える主流派として連携も深めており、両派内では、それぞれの派閥トップが接近することを批判する向きは少ない。

岸田首相による処遇は?

 政権与党の幹事長と政策責任者の政調会長の確執は、党内の意見集約や無理強いの多い公明党との交渉過程などを複雑にし、「不必要な混乱を招いて政策決定に余計な時間がかかるようになった」(党国対幹部)という。

 身内の亀裂は、党が一丸となって参院選を戦う態勢づくりにも影響を与えかねない。岸田首相は周囲に、「党のバランスを取るためには、茂木、高市の双方が必要」と語るが、両氏の対立に積極的に介入する様子はない。党内では「首相が参院選後の党役員人事で両氏をどう処遇するか。行方次第では、新たな政局の芽になる可能性もある」(重鎮)との声もあがる。

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