オペレーションF[フォース] (16)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第16回

執筆者:真山仁 2023年6月10日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)AFP=時事/KCNA VIA KNS[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】周防は防衛省の磯部から、北朝鮮のミサイルは軌道を誤った末の自爆だったと聞かされる。主計局に帰った周防を、大学のゼミの後輩だった暁光新聞の草刈が訪ねてきた。

 

Episode2 傘屋の小僧

 

14 (承前)

「さっそく、用件を伺おうか。今日のような大変な日に、ただ挨拶に来たわけじゃないだろう」

「いやあ、もうバレバレですみません。本来は、夜回りで伺うような話なんですが、もうああいう文化を止めるべきだと思って、堂々とお邪魔しました。今日の北朝鮮のミサイル攻撃騒動で、既にSNSなどでは、『北を断固叩くべし』という声が殺到して大炎上です。おそらく、これは暫く拡大していくのではと、私は見ています。そうすると、防衛力整備計画も防衛費も、次元の違う話になりませんか」

 質問は予想していた内容だが、SNSでの状況に、周防は驚いた。

「ネット上は、もうそんな状態なのか」

「今すぐ、北を攻撃しろって声が、爆発的に広がってますよ。Twitterのトレンドも、全てミサイル関連です」

 周防があわててチェックすると、確かに1位が〈北のミサイル〉、2位が〈北が先制攻撃〉、3位〈北を断固叩くべし〉とトレンドワードが続いている。

「これは、序の口ですよ。弊紙ですら、一触即発だの、宣戦布告だのという文言を使うかで、社内が揉めていますから」

「でも、あれは『誤爆』だろ?」

「あくまでも推測です。北は、沈黙を守っています。日本政府も、外務大臣が、『謝罪と事情説明を求める』という声明を出しただけです。

 政府の対応、中でも、総理の対応がまずいという非難の声も上がっています」

 日本は突発的な危機に弱い。

 有事に対して無頓着ゆえの弱点だが、それを今さら詰ったところで始まらない。

「こういう事態を、財務省としてはどう捉えるのか、防衛費について、何か再考すべき点があるのではないでしょうか」……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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