
【前回まで】周防は防衛省の磯部から、北朝鮮のミサイルは軌道を誤った末の自爆だったと聞かされる。主計局に帰った周防を、大学のゼミの後輩だった暁光新聞の草刈が訪ねてきた。
Episode2 傘屋の小僧
14 (承前)
「さっそく、用件を伺おうか。今日のような大変な日に、ただ挨拶に来たわけじゃないだろう」
「いやあ、もうバレバレですみません。本来は、夜回りで伺うような話なんですが、もうああいう文化を止めるべきだと思って、堂々とお邪魔しました。今日の北朝鮮のミサイル攻撃騒動で、既にSNSなどでは、『北を断固叩くべし』という声が殺到して大炎上です。おそらく、これは暫く拡大していくのではと、私は見ています。そうすると、防衛力整備計画も防衛費も、次元の違う話になりませんか」
質問は予想していた内容だが、SNSでの状況に、周防は驚いた。
「ネット上は、もうそんな状態なのか」
「今すぐ、北を攻撃しろって声が、爆発的に広がってますよ。Twitterのトレンドも、全てミサイル関連です」
周防があわててチェックすると、確かに1位が〈北のミサイル〉、2位が〈北が先制攻撃〉、3位〈北を断固叩くべし〉とトレンドワードが続いている。
「これは、序の口ですよ。弊紙ですら、一触即発だの、宣戦布告だのという文言を使うかで、社内が揉めていますから」
「でも、あれは『誤爆』だろ?」
「あくまでも推測です。北は、沈黙を守っています。日本政府も、外務大臣が、『謝罪と事情説明を求める』という声明を出しただけです。
政府の対応、中でも、総理の対応がまずいという非難の声も上がっています」
日本は突発的な危機に弱い。
有事に対して無頓着ゆえの弱点だが、それを今さら詰ったところで始まらない。
「こういう事態を、財務省としてはどう捉えるのか、防衛費について、何か再考すべき点があるのではないでしょうか」……

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