トヨタの「複雑さ」は吉か凶か

Foresight World Watcher's 3Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2023年7月7日
タグ: EV 中国 フランス
エリア: アジア ヨーロッパ
トヨタは「魔法」を再現できるか[トヨタ自動車が開発中の全固体電池=同社提供](C)時事

 

 今週もお疲れ様でした。日本株のバブル後最高値更新を牽引したトヨタ、その株価騰勢に拍車をかけたのは、株主総会直前の6月13日に伝わった「全固体電池」投入のニュースでした。EVへの取組みの遅れが指摘されてきた同社の起死回生策、英FT紙が実に興味深い分析を行っています。曰く「テスラのシンプルさに対するトヨタの複雑さが吉と出るか、凶と出るか」。なるほど、これは新鮮な視点でした。

 フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。

Will Toyota's solid-state battery win bring back the magic?【Leo Lewis/Financial Times/7月6日付】

 昨年の1月をひとつのピークとして、しばらく下落基調にあったトヨタの株価が今年4月から反転し、上昇を続けている。株安の要因としては、内燃機関を持たない“純電動車”=BEVへの取り組みの遅れが指摘された一方、株高の背景にはBEVに注力する姿勢への転換があり、この3月に発表された社長交代も転換の象徴と目されている。

「2022年の純バッテリー電気自動車の販売台数がテスラのわずか1.8%であり、2023年の第1四半期には全能の世界的ベストセラーだったカローラがイーロン・マスクのモデルYに抜かれた、100年以上の歴史を持つ巨大企業にとっては、ありえないことかもしれない」
「多くの投資家にとって、時代を変える偉大な技術競争でトヨタがライバルを引き離したかもしれないという可能性は、日本の再発明の能力全般――特にトヨタのそれを見限っていた人々にとって――厄介な疑問を投げかけるものだ。結局のところ、日本で最も時価総額の高い企業が、10分の充電で1200kmの走行が可能なバッテリーの実現を視野に入れた可能性を、誰が見逃したいと思うだろうか」

 英「フィナンシャル・タイムズ」紙のアジア・ビジネス・エディター、レオ・ルイスは7月6日付でこのように書いている。株式市場におけるトヨタの評価、あるいはトヨタへの期待を大きく変えたバッテリーの名は、記事のタイトルにも使われている――「トヨタの全固体電池は魔法を再現できるか」。

 用いられる原材料は既存のリチウムイオン電池と大きく変わらないものの、電解液を使用しない全固体電池は、安全性やエネルギー密度、劣化耐性、温度耐性などが高い。重量を抑えながら安全で超高速充電が可能な自動車用バッテリーが造れると見込まれている。その開発で先行しているとされることが最近のトヨタ再評価の大きな材料となっており、FT紙のルイスもその点を指摘している。

 ただ、彼はトヨタを手放しで賞賛しているのではない。

「急速に変化する時代とテスラ、そして間違いなく中国のBYDの躍進によって、トヨタは重要性とリーダーシップの面で世界トップの座から遠ざかっている」「少なくとも、トヨタのような懐が深く、回復力のある企業は、危機的状況下で最高の力を発揮する[中略]。しかし、注目すべきは固体電池よりむしろ、3つの疑問だ」

 この疑問とは次のようなものだ。……

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top