ウクライナ全面侵攻から2年の現在地(下)――何が変わらないのか/欧州の躊躇と苦悩

執筆者:鶴岡路人 2024年2月23日
エリア: ヨーロッパ
ウクライナのNATO加盟問題を従来以上進めることには、特に米国とドイツが反対しているといわれる[安全保障に関する二国間協定調印にあたり、記者会見するゼレンスキー大統領(左)とショルツ首相(右)=2024年2月16日、ドイツ・ベルリン](C)AFP=時事
「ウクライナが欧米を変えた」ことで、短期間での敗北は回避されNATO・EUへの加盟も前進した。しかし一方、プーチンは戦争目的の不変を強調し、NATOとロシアの双方が相手のレッドラインを探る状況も変わっていない。そして「戦後」に目を向ければ、欧州の国際秩序のなかでウクライナをどのように扱うかに関して、欧州は躊躇と逡巡を続けている。米国の支援も頓挫している状況下、脆い「膠着状態」の維持は日増しに難しくなっている。

 ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まってからの間で、本稿(上)でみたように、米欧諸国によるウクライナの能力評価とウクライナ支援の本気度の上昇、そしてウクライナによるNATO、EUへの接近という大きな変化がすでにおきた。しかしすべてが変わったわけではない。全体の構図としては変わらないものが多いことも見逃せない。

 以下では変わらないものを順に検討し、そのうえで、(上)で検討した変わったものを加味し、今後を見通すための要点を考えることにしよう。

変わらないもの(1)ウクライナとロシアの立場

 この戦争をめぐるロシアとウクライナの基本的な立場は変わっていない。ロシアが国際法に違反し、隣国に対するいわれのない一方的侵攻をおこない、それに対してウクライナが自衛権を行使し、自国防衛のための戦いを強いられているという構図だ。これがすべての前提であり、それゆえ、たとえ戦場レベルでの具体的行動において類似点があったとしても、「どっちもどっち」ではない。この点は何度でも繰り返す必要がある。

 ロシアの戦争目的については、作戦の個別の側面に関しては伸縮自在な部分があるのだろう。ウクライナとの戦場レベルでの力のバランス次第で、防御と攻撃のバランスを変えることは当然である。攻勢をかける地域にも変化がある。攻撃目標の選定においても、エネルギーなどのインフラ施設を重点的に攻撃するか軍事施設や前線部隊に焦点をあてるかについて、これまでも変遷があった。

 しかし、今回の侵攻にあたって掲げられたウクライナの「非ナチ化」「非軍事化」「中立化」といった目的は不変だとプーチン自身が何度も強調している。水面下で停戦交渉を模索しているとの報道はあるものの、ロシアから停戦を公言する状況にはなっていない。現状では戦果が不十分なのだろう。

 対するウクライナの側についても、根本的な部分が変化する兆しはない。ウクライナ国民が戦争の行方についてより悲観的になっているとの世論調査結果はあるものの、領土の妥協をすることへの世論の支持は依然として低い。また、戦況が思うようにいかないなかで、軍総司令官の事実上の更迭など、内輪揉めとみられるようなことも起きているが、これまでのところは大勢に影響のない範囲のようだ。

 ウクライナ側は、「平和の公式」を掲げ、単なる停戦ではなく、公正で持続的な平和を求めている。次なる侵攻準備のための時間稼ぎを目的としたまやかしの停戦では平和はやって来ないとの思いが強い。そして、再度の侵攻を防ぐためには抑止力が必要になり、これがウクライナの求める「安全の保証」である。

 ロシアとウクライナの立場は大きく離れており、停戦交渉をおこなうにしても、両国が折り合える一致点を見出すのは至難の業だというのが現状であり、この構図も2022年3月末のイスタンブールでの停戦協議が頓挫してからは変わっていない。それどころか、同年9月のロシアによるウクライナ東部・南部4州の併合なるものが宣言されて以降、一致点どころか交渉の出発点を探すことすらも困難になった。ロシアが4州の帰属は交渉の対象にならないとの姿勢を維持しているからである。

変わらないもの(2)ロシアに対するNATOの慎重さ

 次にNATO側の極めて慎重な対露姿勢である。本稿(上)で、NATO諸国によるウクライナへの武器供与が、戦況の推移やウクライナからの働きかけによってなし崩し的に拡大してきたと指摘したが、それでも例えばNATO諸国製主力戦車やより長射程のミサイル、さらには戦闘機の供与など、従来から一歩踏み出すことが必要になる際に、その都度NATO側には極めて明確な躊躇が存在したのである。この慎重さの最大の理由は、「ロシアを過度に刺激したくない」「ロシアのレッドラインはどこか」という考慮だった。徐々に乗り越えてきたとはいえ、本質的な部分は変わっていない。

 こうした考慮がはたらく究極の背景は……

カテゴリ: 軍事・防衛 政治
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部准教授、戦略構想センター・副センタ―長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)など。
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