米国において軍のリクルート危機が大きな問題となっている。2023年度(米会計年度、以下同じ)において新規採用目標数を達成できたのは海兵隊と創設5年目の宇宙軍だけであった。その他の軍種はほぼ全ての区分で採用目標数を達成できず、ここ数年、厳しいリクルート状況が続いている。
2024年度の国防授権法においては、米軍の最終兵力レベルである現役兵の数が128万4500人に縮小するとの見通しが示されている。過去3年で約6万5000人も減少しており、第二次世界大戦参戦前の兵力規模を下回る見込みであることを懸念する報道がある。ロシアのウクライナ侵略の継続やイスラエルとハマスの紛争に伴う中東情勢の不安定化に加えて、核・弾道ミサイル開発を進める北朝鮮や武力による台湾統一を放棄せず既存秩序に挑戦し続ける中国など、厳しさを増す国際安全保障環境等を背景として、米軍のリクルート危機に対する関心が高まっている。また、米国においては1973年に徴兵制が撤廃され、現在の全志願兵制(All-Volunteer Forces System、以降は「志願制」と言う)に移行して50年の節目を迎えたこともあって、米軍のリクルート危機により一層の脚光が当たっている。
2年で5%減少した陸軍の現役兵力
米軍のリクルート危機は、軍種や採用区分(将校、下士官等)によって状況は異なるが、総じて厳しい状況にある。中でも陸軍のリクルート状況は最も厳しいものとなっている。2022年度、陸軍は約1万5000人(目標の25%)の現役兵を採用できず、最終兵力計画を47万6000人から46万6000人に削減せざるを得なかった。2023年度は目標数に約1万人届かなかった。単純計算ではあるが、陸軍の現役兵力が僅か2年で5%も減少し、最終兵力数が更に減少する可能性もある。
空軍は、2022年度はかろうじて将校の採用目標数を達成したものの、現役の下士官採用目標は1999年以来初めて未達成となった。2023年度は将校・下士官を合わせた目標数約2万6900を2500人以上下回った。海軍は、陸軍ほどではないが厳しい状況にあることに変わりはない。2022年度に海軍は将校・下士官共に採用目標数を約20%下回り、2023年度も現役下士官の目標数約3万7000人に対して約7000人も下回っている。
これに対して目標数を達成したとされる宇宙軍、海兵隊のリクルート事情が好調なわけではない。(陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊に次ぐ)第6番目の軍種として2019年に独立した宇宙軍は、兵力規模の当面の目標が約1万8000人と小規模であること、他の軍種から移籍する兵士を主体に宇宙軍を建設する途上にあること、従って毎年の新規採用目標数が約1000人程度(うち約半数は他軍種からの転属)と少ないことから、厳しいリクルート事情が顕在化していないだけである。他方で、海兵隊はトータルの戦力規模が約17万5000人と海軍や空軍の半分程度であることに加えて、海兵隊コミュニティの強い絆を最大限活かした独自の取り組みを進めている。しかし、かろうじて採用目標数を達成している状況であり、2023年度は現役入隊者、予備役将校、下士官の目標数を数名から数十名超えたギリギリの達成状況であった。
理由は「好景気の人手不足」だけではない
米国社会は一般的に軍に対する信頼が厚く、軍人に対する尊敬の念が強いと言われる。何故、その様な米国において軍のリクルート危機が生じているのであろうか。
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