Weekly北朝鮮『労働新聞』 (65)

マルクスとレーニンの肖像画が復活、「日本首相の岸田」は呼び捨てに逆戻り(2024年5月12日~5月18日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年5月20日
エリア: アジア
朝鮮労働党中央幹部学校は金正恩が「大学の上の大学」「一流の大学」として重視する教育機関だ[中央幹部学校を現地指導する金正恩国務委員長](「労働新聞」HPより)
金正恩政権発足直後の2012年4月、平壌の金日成広場からマルクスとレーニンの肖像画が撤去されたことが確認されていた。ところが今月、金正恩が「大学の上の大学」として重視する朝鮮労働党中央幹部学校を現地指導した際、校舎の壁には金日成と金正日の肖像画ではなく、マルクスとレーニンの大きな肖像画が掲げられていた。一方、今年1月には「閣下」と呼んでいた岸田文雄首相については、4月下旬から「日本首相の岸田」という従来の言い回しに戻ってしまった。『労働新聞』注目記事を毎週解読
 

 5月15日付は、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長出席のもと挙行された「前衛通り」の竣工式について4ページかけて報じた。平壌(ピョンヤン)市北部に建設された「前衛通り」は80階建てのタワーマンションも擁しており、「敬愛する父」であり「偉大な親」である金正恩が格別な関心を払ってきたことが称えられた。「歓迎曲が響くなか、父なる元帥様が愛するお子さまとともに竣工式場に到着するや、爆風のような『万歳!』の歓声が上がった」として、江東(カンドン)総合温室竣工・操業式以来2カ月ぶりに娘の同行が確認された。同日付第5面には、金正恩が「重要武装装備の生産実態を了解」したとの記事が掲載されたが、ここに娘は同行していない。

 金正恩による兵器工場の視察回数は急増している。13日付第1面は、金正恩が複数の「重要国防工業企業所」を現地指導したとの記事であり、妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長も随行している。

 18日付第1面は、「重要国防工業企業所の生産活動を指導」したとの記事であった。金正恩は、「2024年度上半期の生産実績と年間軍需生産計画遂行の見通しについても大きな満足の意を表明」し、「敵どもの無謀な軍事的対決策動によって造成された国家の安全環境に対処して、核戦争抑止力向上の必然性をさらに厳正に認めざるを得ない」「核兵力をより急速に強化するための重要活動(複数)と生産活動を絶えず躊躇なく継続的に加速化していく」と述べた。

 続いて第2面には「朝鮮民主主義人民共和国ミサイル総局の新たな誘導技術を導入した戦術弾道ミサイル試験射撃実施」と題する記事が掲載され、発射実験に立ち会った金正恩が「軍事戦略的価値に大きな満足の意を表明」したことが紹介された。

 16日付第1面は、金正恩が朝鮮労働党中央幹部学校を現地指導したとの報道であった。金正恩は、この学校が「金日成(キム・イルソン)・金正日(キム・ジョンイル)主義の精粋分子を育て上げるその重大かつ聖なる使命に常に忠実であること」を指示した。金正恩は同校を「大学の上の大学」「一流の大学」として重視しており、3月末に建設現場を現地指導していた。

 興味深いのは、記事に付された写真を見る限りにおいて、中央幹部学校の校舎の壁面に掲げられたのが金日成、金正日の肖像画ではなく、マルクスとレーニンの大きな肖像画であったことである。

カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top