Weekly北朝鮮『労働新聞』 (114)

北朝鮮軍のクルスク派兵は「国際法に全的に符合」と初の立場表明(2025年4月27日~5月3日)

執筆者:礒﨑敦仁 2025年5月7日
タグ: 北朝鮮 ロシア
エリア: アジア
新型駆逐艦「崔賢」の試験射撃に娘を伴って立ち会った金正恩国務委員長[2025年4月29日、場所は不明](C)EPA=時事
朝鮮労働党中央軍事委員会は4月27日に『労働新聞』などへ「書面立場文」を送ったとされ、翌28日の1面トップでロシア・ウクライナ戦争への派兵が初めて公表された。29日にはプーチン大統領の声明も掲載され、朝露両国が揃って「包括的戦略パートナーシップ条約」第4条に基づく参戦を強調している。27日付の紙面では、3月から姿が見えなかった趙甬元党組織担当書記の健在が確認された。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 北朝鮮側が、ロシア・ウクライナ戦争への派兵をついに公表した。4月28日付1面トップにおいて、朝鮮労働党中央軍事委員会がロシア・クルスク地域の「解放作戦」に参加した部隊を高く評価したとの記事が掲載されたのである。

 党中央軍事委員会は27日に『労働新聞』と朝鮮中央通信に「書面立場文」を送ったとされる。金正恩政権下で初めて登場した「書面立場文」において、「ロシア連邦に対するウクライナ当局の冒険的な武力侵攻を撃退するためのクルスク地域の解放作戦が勝利で終結した」とされ、「朝鮮民主主義人民共和国の国家首班の命令によって」この作戦に参加した部隊がウクライナの「ネオナチ勢力」を殲滅するのに重大な貢献をしたと称えられた。

 参戦は、「国家首班」すなわち、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の命令によるものだと明記されている。「包括的戦略的パートナーシップ関係に関する条約」の第4条に該当するとして金正恩自ら参戦を決定してロシア側に通報し、ロシア軍との作戦参加を命ずる党中央軍事委員会命令を下達したことが明らかにされた。軍事行動は、「国連憲章をはじめとした国際法と朝露間の包括的戦略的パートナーシップ関係に関する条約の諸条項と精神に全的に符合して」いるという。

 参戦して犠牲となった軍人を称えて平壌に「戦闘偉勲碑」を建立するほか、彼らの魂を長く伝え、遺族を「特別に優待して面倒を見るための重要な国家的措置」を取らねばならない、と金正恩が述べたことも紹介された。

 北朝鮮政府は、「ロシア連邦のような強力な国家と同盟関係にあることを光栄と考え、……ロシアの特殊軍事作戦遂行に寄与したことを嬉しく思う」と表明した。また、党中央軍事委員会は、「血で検証された両国間の不敗の戦闘的友誼」が両国関係の拡大発展に大きく寄与することを確信しているとして、「(党中央委員会と北朝鮮政府の委任によって)今後も変わらずロシアの軍隊と人民の聖業を全幅的に支持し、朝露国家間の条約精神に基づいた任意の行動にも依然として忠実であることを確言する」とした。ロシアへの軍事支援、派兵の継続意思が示されたと言える。

 その後も関連記事は続き、翌29日付1面トップには、北朝鮮軍の部隊がクルスク地域の「解放作戦」に参加したことに対するウラジーミル・プーチン大統領の声明全文が掲載された。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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