「最も愛するお嬢さま」を伴い駐朝ロシア大使館で祝賀演説、「血盟関係」と表現(2025年5月4日~5月10日)

金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の動静報道が相次ぐ1週間となった。特に、ロシアの「戦勝記念日」である5月9日に娘を連れて在朝ロシア大使館を訪問したことは注目された。同日は、第2次世界大戦でソ連がナチス・ドイツに勝利して80年目となった日である。
9日、朝鮮中央通信が崔善姫(チェ・ソニ)外相による発表として速報し、『労働新聞』は翌10日付で詳しく報じた。朝鮮中央通信の報道では、金正恩が「最も愛するお嬢さまと党及び国家の指導幹部たちとともに」ロシア大使館を訪問したと報じられた。娘に「最も愛する」との修飾語が付されたのも「お嬢さま」と表現されたことも初めてである。
これまで北朝鮮メディアが娘について触れる場合には、一貫して「お子さま」と称してきた。原文の直訳は「子弟のお方」なのだが、本稿では便宜上「お子さま」と表記している。それがどういうわけか今回は「お嬢さま」、女児であることが明記されたのである。
筆者は、北朝鮮メディアの報道ぶりから、この娘が金正恩の後継者である可能性が高く、四代世襲に向けた準備が開始されたものと見てきたが、この朝鮮中央通信社報道により新たな疑問を抱えることとなってしまった。これまでに「愛するお子さま」と称されたことはあったが、今回は「最も」も加わって「最も愛するお嬢さま」とされたことから、論理的には男兄弟がいることを示唆しているようにも読み取れる。「最も愛するお子さま」であれば、たとえ他に「お子さま」がいたとしても彼女が後継者に確定していると考えても良い表現であるが、なぜ「最も愛するお嬢さま」としたのか、背景がよく分からない。
不可解なのは、翌日付の『労働新聞』では、「最も愛するお嬢さま」との表現が用いられず、その代わりに「尊敬するお子さまが同行された」との一文が挿入されたことである。

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