Weekly北朝鮮『労働新聞』
Weekly北朝鮮『労働新聞』 (115)

「最も愛するお嬢さま」を伴い駐朝ロシア大使館で祝賀演説、「血盟関係」と表現(2025年5月4日~5月10日)

執筆者:礒﨑敦仁 2025年5月12日
エリア: アジア
ロシアの対独戦勝記念日に在朝ロシア大使館を訪問した金正恩国務委員長とその娘[2025年5月9日=北朝鮮・平壌](C)AFP=時事
ロシアの対独戦勝記念日に金正恩国務委員長が平壌のロシア大使館を訪問。翌日の紙面では、同行した娘について「最も愛するお嬢さま」との表現が初めて使われた。朝鮮戦争を共に戦った中国との関係を指す「血盟関係」を、ロシアに対して用いたのも初めてだ。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の動静報道が相次ぐ1週間となった。特に、ロシアの「戦勝記念日」である5月9日に娘を連れて在朝ロシア大使館を訪問したことは注目された。同日は、第2次世界大戦でソ連がナチス・ドイツに勝利して80年目となった日である。

 9日、朝鮮中央通信が崔善姫(チェ・ソニ)外相による発表として速報し、『労働新聞』は翌10日付で詳しく報じた。朝鮮中央通信の報道では、金正恩が「最も愛するお嬢さまと党及び国家の指導幹部たちとともに」ロシア大使館を訪問したと報じられた。娘に「最も愛する」との修飾語が付されたのも「お嬢さま」と表現されたことも初めてである。

 これまで北朝鮮メディアが娘について触れる場合には、一貫して「お子さま」と称してきた。原文の直訳は「子弟のお方」なのだが、本稿では便宜上「お子さま」と表記している。それがどういうわけか今回は「お嬢さま」、女児であることが明記されたのである。

 筆者は、北朝鮮メディアの報道ぶりから、この娘が金正恩の後継者である可能性が高く、四代世襲に向けた準備が開始されたものと見てきたが、この朝鮮中央通信社報道により新たな疑問を抱えることとなってしまった。これまでに「愛するお子さま」と称されたことはあったが、今回は「最も」も加わって「最も愛するお嬢さま」とされたことから、論理的には男兄弟がいることを示唆しているようにも読み取れる。「最も愛するお子さま」であれば、たとえ他に「お子さま」がいたとしても彼女が後継者に確定していると考えても良い表現であるが、なぜ「最も愛するお嬢さま」としたのか、背景がよく分からない。

 不可解なのは、翌日付の『労働新聞』では、「最も愛するお嬢さま」との表現が用いられず、その代わりに「尊敬するお子さまが同行された」との一文が挿入されたことである。

カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f