Weekly北朝鮮『労働新聞』 (93)

金正恩がロシア国防相と会談し「常にモスクワとともにある」と確言(2024年11月24日~11月30日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年12月2日
エリア: アジア
ベロウソフ国防相(AFP=時事左)を4・25文化会館で歓待した金正恩国務委員長[2024年11月29日、北朝鮮・平壌](C)
北朝鮮を訪問したロシアのベロウソフ国防相は、金正恩国務委員長と会談するなど歓待を受けた。会談では「帝国主義」と戦うプーチン政権への支持が改めて表明され、北朝鮮外交は対露一辺倒の様相を見せている。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】
 

 11月30日付は、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長がロシアのアンドレイ・ベロウソフ国防相と会談を行ったことを報じた。相手が首脳クラスではないことから朝鮮語原文では「接見」したとなっている。

 掲載写真を見ると、ロシア側から3人が着席したのに対し、北朝鮮側は金正恩のみがテーブルに着き、後方に通訳を配したのみであった。6月19日にウラジーミル・プーチン大統領が24年ぶりに訪朝した後、ロシアからはアレクセイ・クリボルチコ国防次官(7月18日)、セルゲイ・ショイグ安全保障会議書記(=前国防相=9月13日)、アレクサンドル・コズロフ天然資源環境相(11月18日)が立て続けに訪朝しているが、金正恩はいずれもテタテの会談(通訳のみの1対1の会談)を行っている。

 以前より北朝鮮の最高指導者は、議題が機微なものである場合に同席者を制限するのが常であった。例えば、小泉純一郎首相に日本人拉致の事実を認めて謝罪した2002年9月の日朝首脳会談において、金正日(キム・ジョンイル)国防委員長は通訳のほか側近1名のみを陪席させていた。

 今回、金正恩はベロウソフを団長とするロシアの軍事代表団に対し、ロシア・ウクライナ戦争について「深刻な憂慮」を表明するとともに、「最近、米国が取った反ロシア的措置は紛争を長期化させ、全人類を脅かす無責任な行為であり、当然、国際社会の糾弾を受けるべき」だと述べた。また、米国と西側諸国は「紛争に対する直接的な軍事的介入」を行っているとの見解も披瀝し、北朝鮮の「政府と軍隊と人民」は、「帝国主義覇権策動に対応して国家の主権と領土保全を守護しようとするロシア連邦の政策を変わることなく支持する」「平壌(ピョンヤン)は常にモスクワとともにある」ことを「確言」したことも紹介された。

 ロシアへの派兵に対する言及は依然として見られないものの、金正恩自身が「帝国主義」と戦うプーチン政権への全面支持を繰り返し表明することによって、北朝鮮国民が派兵の事実を知ったとしても大きな衝撃を受けないよう環境整備が進められたと言える。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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