
2月18日にサウジアラビアの首都リヤードで、ロシアのウクライナ侵攻以降で初となる米露高官による直接的な会合が開催された。協議の内容はウクライナ和平案が中心的なものであったが、世界全体の原油生産量の4割を占める上位3カ国が一堂に会する機会になったこの会合は、ドナルド・トランプ政権にとって対話・協力すべき国がいずれであるかを示唆する強力なメッセージでもあった。会合に同行したロシア直接投資基金(RDIF)のキリル・ドミトリエフCEOは、ロシア北極圏におけるLNG(液化天然ガス)開発事業である「アークティック」での米国との合同プロジェクトの可能性についてもリヤードで協議したと明かしており、エネルギー分野での協力が国際情勢を動かす要因として再浮上しているようにも感じられる。
一方、仲介したサウジアラビアの反応は抑制的なものにとどまった。外務省からの声明では、会合は「世界の安全と平和を強化するサウジの努力の枠組みの中で実施されたもの」であり、「対話があらゆる国際危機を解決する唯一の手段であるとの信念」から行われたと説明しているが、会合で議論された内容には一切触れていない。2月12日にトランプ大統領がサウジアラビアで米露首脳会合を実施すると発言した際にも、これを歓迎する声明が出てきたのは丸一日以上経過した2月14日のことである。トランプのガザ所有発言のときには、発言からわずか1時間で非難声明を出したことを考えると、積極性に随分な差があると言えよう。
米国とサウジアラビアの温度差は石油政策においても如実に出ている。関税拡大と減税を推進するトランプ大統領は、自身の経済政策によるインフレ加速を抑制するために、原油価格の引き下げを主張している。米国内での大規模な石油・天然ガス開発の促進に加え、サウジアラビアを筆頭にするOPEC(石油輸出国機構)加盟国には原油の増産を求めている。しかし、OPECは原油価格の安定を優先する協調減産政策を維持しており、トランプの要望に応える姿勢を見せていない。
相次ぐ環境規制により座礁資産と称されることも増えてきた石油を始めとする化石燃料だが、依然としてエネルギー資源の中心的存在であり、物価に直結する油価の変動は各国の実態経済や国民生活に与える影響が大きい。戦略物資として国際的な重要性を帯びている石油の取り扱いは、経済的な合理性のみならず政治的な思惑によっても左右されており、政権交代した米国と中東諸国とのこの先4年間の関係を占う上でも避けては通れない題材であろう。
最初の要求は「ひとまず無視」
「サウジアラビアとOPECには、原油価格の引き下げを要請するつもりだ。あなた方は原油価格を引き下げなければならない。率直に言って、彼らが選挙前にそうしなかったのには驚いている。それをやらないなんて、愛情を感じられなかった。少し驚いた」

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