動き出したイラン核交渉――「ディール」したいトランプにイスラエルの焦り、立場を変えたサウジアラビア

執筆者:村上拓哉 2025年4月30日
エリア: 中東
イランはロシア、中国との連携を図りながら核問題の交渉に臨んでいる[オマーン・マスカットに到着したイランのアラーグチー外相(右)=2025年4月25日](C)AFP=時事 / HO / IRANIAN FOREIGN MINISTRY
軍事攻撃を示唆してイランに核合意締結への圧力をかける米トランプ政権だが、実際には交渉のハードルを下げるサインも送ってきた。イランにとっても、国際社会の制裁が難しくなる今年10月のJCPOA失効を視野に入れつつ対米関係を管理できるのなら、交渉は望むところだろう。ただし、イランの核が生存の危機に直結するイスラエルは、「ディール」の蚊帳の外におかれるわけにはいかない。イラン批判の矛を収める姿勢に転じたサウジも含め、各アクターの思惑は錯綜している。

 米国とイランの間で、にわかに外交が動き出している。

 ガザ、ウクライナの停戦仲介も担当する米国のスティーブ・ウィットコフ中東特使は、多忙なスケジュールの合間を縫って4月12日にイランのアッバース・アラーグチー外相とオマーンにて会談した。協議はイランの主張によりオマーンの外相を仲介に入れた間接交渉の形式で行われたが、米・イランとも前向きかつ建設的な議論がなされたと協議を肯定的に評価した。

 ウィットコフ特使とアラーグチー外相は1回目の協議の翌週の19日に2度目の協議をローマで実施、26日には3度目となる協議をオマーンで実施したが、26日は専門家による技術協議も同時に行われ、細部に関する交渉も始められた。第4回の協議は5月3日に予定されているが、唐突に始まった米・イラン間の協議がハイペースで進んでいるのは、それぞれ国内で政治的な調整が必要ないくらい両者の間に意見の相違がなく、合意の締結に向けて双方に熱意があることを示していよう。ドナルド・トランプ政権の高官とイラン政府の高官が核問題について協議するのは、第一次トランプ政権期(2017-2021年)を含めてこれが初めてのことである。

強硬姿勢はトランプ個人の志向にそぐわない

 トランプ大統領と言えば、第一次政権期にバラク・オバマ前政権がイランとの間で成立させた核合意、包括的共同行動計画(JCPOA)から一方的に離脱し、今日につながる対イラン制裁を復活させた張本人である。制裁によって原油輸出の大幅な制限を受けたイランは、ホルムズ海峡付近を航行する原油タンカーやサウジアラビアの原油施設に対する攻撃を実行し、2019年後半から2020年初頭にかけて中東地域の軍事的な緊張は高まることになった。

 第二次政権を発足させたトランプ大統領は、就任してわずか2週間でイランに対する「最大限の圧力」政策を再開させ、第一次政権期と同様にイランに対する経済制裁を強化していく方針を示している。さらに、3月15日からはイエメンのフーシー派に対する空爆を開始し、フーシー派による行動についてはこれを支援するイランの直接的な責任を追及すると宣言している。

 イランへの強硬姿勢はトランプ個人の志向というよりも、

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
村上拓哉(むらかみたくや) 中東戦略研究所シニアフェロー。2016年桜美林大学大学院国際学研究科博士後期課程満期退学。在オマーン大使館専門調査員、中東調査会研究員、三菱商事シニアリサーチアナリストなどを経て、2022年より現職。専門は湾岸地域の安全保障・国際関係論。
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