
米国でドナルド・トランプ大統領が誕生して間もなく3カ月。やはり、というべきか。経済や市場の至る所でちゃぶ台返し的な変化が起きている。ここ数年、資本市場を席巻した「ESG(環境・社会・企業統治)」も例外ではない。
米国政府はパリ協定から離脱を表明し、ウォール街の資産運用会社や金融機関はESGや脱炭素、DEI(多様性、公平性、包摂性)の看板を慌てて引っ込めた。トランプ政権からどんな嫌がらせをされるかわからず、実際、共和党が強い「赤い州」ではESGを標榜していると公的な年金運用の受託などに支障を来しかねないという。物言えば唇寒し。それが今の米国だ。
多くの投資家は依然としてESG支持
日本経済新聞の記事検索システム、日経テレコンを使って「ESG」を含む記事数の推移を調べてみた。パリ協定が採択されSDGs(持続可能な開発目標)がつくられた2015年を起点に、記事数はきれいな右肩上がりで増加。22年には837本に達した。しかし、24年は258本とピークに比べて約7割も減ってしまった。記事の数を市場の関心の代理変数と捉えるなら、今後4年のトランプ時代にESGは消滅しかねない。

しかし、明らかに違う方向性を示すデータもある。
米モルガン・スタンレーサステナブル投資研究所が世界901社の機関投資家を対象に調べたところ、「今後2年間にサステナブル運用の資産配分が増える」と予想する声は、資産運用会社などのアセットマネジャーが78%、年金などの同オーナーでは80%に達した。ここでいう「サステナブル運用」とは、「循環経済」や「気候変動対策」「地域の発展」などを重視する投資手法のことであり、「ESG」とほぼ同義だ。大半の投資家はトランプ時代にあっても、ESG/サステナブル運用は盛んになると見ている。
なぜだろうか。
「金銭的な利益」とESGは切り離せない
ESGの要素が企業業績に影響するという認識が広がっている。たとえば、トランプ政権は米国の企業年金の運用を規定するエリサ法(従業員退職所得保障法)を改正し、「投資判断の根拠を金銭的な利益だけに限る」といった内容にするといわれる。事実上の「ESG禁止」だ。しかし、仮にそうなったとしても投資家による「金銭的な利益」予想に「環境」や「社会」は組み込まれているのが実態だ。

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