2026年の展望:日米中の地経学的均衡は成立するか

執筆者:鈴木一人 2026年1月1日
エリア: グローバル
アメリカは中国との関係を安定化させ、レアアースの供給を安定させることが最優先課題となった[韓国で開催された米中首脳会談を伝えるショッピングモールのスクリーン=2025年10月30日、中国・北京](C)AFP=時事
米中が経済の「武器化」による競争を本格化した2025年、浮き彫りになったのはレアアースの対中依存という米国の弱みだ。2026年の米国は、まずは中国との関係安定化を優先するだろう。一方で日米関係も安定しているが、悪化した日中関係をめぐっては、米国は中立的立場をとり続けると考えられる。この地経学的な力学の変化は日本に何をもたらすのか。

 2025年は「地経学元年」と言える年であった。1月にトランプ政権が発足して以来、中国をはじめとする戦略的競争相手だけでなく、同盟国に対しても「相互関税」と呼ばれる、一方的な関税をかけることを宣言した。多くの国は、トランプ政権との交渉を通じて関税の引き下げの見返りとして、巨額の投資を約束させられ、また、内政干渉ともいえる条件を受け入れざるを得なくなった。第二次大戦後、関税を引き下げ、貿易を活発化させることで経済発展を目指す自由貿易秩序から大きく逸脱する形で経済を「武器化」し、他国に影響力を行使し、新たな国際秩序を作り出す、「地経学時代」が始まったのである。

 しかし、トランプ関税に対抗措置を取ったのが中国である。レアアースの輸出管理を強化し、その供給を絞ることで、多くの国に中国に依存していることを自覚させた。特にアメリカはレアアースが調達できなくなることで、戦闘機などの兵器の生産にも影響する状況となった。そのため、トランプ政権は、2025年の国家安全保障戦略で、中国に対して経済的な依存を続けることは、国家安全保障上の問題であることを明らかにし、サプライチェーンの多元化を通じた、安定したレアアースなどの供給を確保することが急務であるとの認識を示した。

 他方、日本では、10月の自民党総裁選で高市早苗が勝利し、初の女性総裁となったが、これまで26年間、自民党と連立を組んでいた公明党が離脱し、過半数を得るには厳しい状況となっていた。しかし、日本維新の会が閣外協力の形で与党入りしたことで、高市は初の女性首相となった。首相就任直後からASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議やドナルド・トランプ大統領訪日、APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議などの外交日程を上手くこなした高市だったが、首相になって1カ月も経たないうちに、国会での答弁がきっかけとなり、日中関係が悪化することとなった。中国は日本に圧力をかけるため、日本への旅行者に自粛を求め、日本のアニメ映画の上映や日本人アーティストのコンサートを中止させるなどの措置を取り、11月から出荷が始まった日本産水産物の輸入を再び止めるなどの経済的威圧を実施している。

 このように、2025年は日米中の三カ国の間で地経学的な力学の変化が起き、その均衡点がはっきりと示されないまま、年が暮れた。本稿では、2026年の展望として、日米中の三カ国の地経学的パワーの均衡がどのように成立し、それが新たな国際秩序を生み出すかどうかを検討してみたい。

 

米中関係:関係安定を目指す米国

 第二次トランプ政権が始まった時、多くの人は、第一次政権のイメージから、トランプ大統領は米中対立路線を取るものと考えていたことだろう。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
鈴木一人(すずきかずと) 東京大学公共政策大学院教授 国際文化会館「地経学研究所(IOG)」所長 1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学公共政策大学院教授を経て、2020年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、編・共著に『米中の経済安全保障戦略』『バイデンのアメリカ』『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』『ウクライナ戦争と米中対立』など多数。
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