こんな時期に内閣情報官と危機管理監を突然交代させていいのか

執筆者:春名幹男 2012年1月4日
タグ: 北朝鮮 日本
エリア: アジア

 慌ただしい年末の27日、野田内閣は植松信一内閣情報官と伊藤哲朗内閣危機管理監を退任させる人事を突然決定した。
金正日総書記死去の発表直前、新橋での街頭演説に出かけてしまい、急きょ戻って、恥をかいた野田首相。「重大発表の予告」を野田佳彦首相に緊急連絡しなかった、として、両氏は責任をとらされたのではないか、との推測が広がった。真相は闇の中だが、藤村修官房長官は記者会見で「更迭」との見方を否定したという。
自民党の石原伸晃幹事長は「トカゲのしっぽ切りだ」と批判した。野田首相は「危機管理能力のなさ」を責任転嫁したのがこの人事、というのが自民党の主張である。
だが、「更迭」か「トカゲのしっぽ切り」か、そんな論争は当を得ていない。
北朝鮮情勢がなお流動的なこの時期に、情報機関と危機管理体制のトップをなぜ交代させたのか、が最も重要な問題である。引き継ぎなどに余計な時間を取られてしまい、その間にまた緊急事態が発生したらどうするのか。
「日本にはまともな情報機関がない」などと批判されてきたが、内閣情報官は内閣情報調査室のトップ。首相を情報面で支え、防衛省情報本部、公安調査庁、公安警察などのコーディネーターとしても重要な任務を担っている。情報機関の強化策を何も実行せず、こんな時期に重要人事を発表するのはなぜか。そんな質問をぶつけるメディアもないようだ。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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