『経国美談』という歴史小説をご存じだろうか。一八八三年に、自由民権派のジャーナリストで文筆家の矢野龍渓が書いた歴史小説である。岩波文庫にも入っているから入手は比較的容易だが、あまり知られていないのではないかと思ったので、今回は、この小説の紹介をしたい。「世界政治のキーノート」で、なぜ、小説の紹介をするのか。もちろん、この小説が面白いからであるが、世界政治の分析にも役に立つと思うからである。小説の舞台は、紀元前四世紀の古代ギリシア。ペロポネソス戦争でスパルタがアテネを下し、ギリシア世界の覇権を握るなかで、中小国テーベの民主派指導者たちが、テーベにおけるスパルタ寄りの専制勢力を打ち倒し、国際政治の荒波のなかで虚々実々の政治を繰り広げる。主人公の一人、イパミノンダスの戦略と戦術によって、紀元前三七一年、テーベはレウクトラの戦いでスパルタを下し、ギリシア世界の覇権を握る。
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