政治家や外交官にもすすめたい『経国美談』

執筆者:田中明彦 2008年9月号
タグ: 中国 日本
エリア: アジア

『経国美談』という歴史小説をご存じだろうか。一八八三年に、自由民権派のジャーナリストで文筆家の矢野龍渓が書いた歴史小説である。岩波文庫にも入っているから入手は比較的容易だが、あまり知られていないのではないかと思ったので、今回は、この小説の紹介をしたい。「世界政治のキーノート」で、なぜ、小説の紹介をするのか。もちろん、この小説が面白いからであるが、世界政治の分析にも役に立つと思うからである。小説の舞台は、紀元前四世紀の古代ギリシア。ペロポネソス戦争でスパルタがアテネを下し、ギリシア世界の覇権を握るなかで、中小国テーベの民主派指導者たちが、テーベにおけるスパルタ寄りの専制勢力を打ち倒し、国際政治の荒波のなかで虚々実々の政治を繰り広げる。主人公の一人、イパミノンダスの戦略と戦術によって、紀元前三七一年、テーベはレウクトラの戦いでスパルタを下し、ギリシア世界の覇権を握る。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
田中明彦(たなかあきひこ) 1954年、埼玉県生まれ。東京大学教養学部卒業。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。東京大学東洋文化研究所教授、東京大学副学長、国際協力機構(JICA)理事長、政策研究大学院大学学長、三極委員会アジア太平洋地域議長などを経て、2022年4月より再び国際協力機構(JICA)理事長に就任。著書に『新しい「中世」―21世紀の世界システム』(サントリー学芸賞受賞)、『ワード・ポリティクス―グローバリゼーションの中の日本外交』(読売・吉野作造賞)、『アジアのなかの日本』、『ポスト・クライシスの世界―新多極時代を動かすパワー原理』など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top