「コーナーの席が空いていますから、あちらで水タバコでもいかがですか。上質なカフェもあります」 ゆっくりとした口調で話す店員に案内されるまま、「アルジャジーラ」の店内へ入った。ここはインドネシアの首都ジャカルタのアラブ人街で一番人気のレストラン。外は炎天下でも、窓のカーテンは閉められ照明も落とされているので、店内は薄暗い。目をやると、ふっくらとしたソファーに身を沈め、水パイプを悠然とくわえるアラブ人の姿があった。垂直に立った水パイプの最上部で赤く燃える炎は、二匹の蛍のようだ。 ジャカルタ中心部の大通りから、東に向けて車を走らせ、横道を入ると通称「アラブ人街」に至る。旅行ガイドや地図にも正式に記載されていないため、ジャカルタ在住の日本人さえ、その存在を知らないことがままある。街は七月八日の大統領選挙に向けたキャンペーンの真最中で、いたるところにユドヨノ大統領やメガワティ前大統領など候補者の大きな顔写真が張られているが、アラブ人街は選挙戦などどこ吹く風。まるで異次元空間だ。
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