黒い爪 高橋昭博『ヒロシマいのちの伝言』

執筆者:船橋洋一 2002年9月号

 広島市の原爆資料館のガラスケースの中に「黒い爪」が展示されている。鴬のくちばしのような醜く、黒く、湾曲した物体である。 一九四五年八月六日、原爆が投下された時、爆風で飛散したガラス片が右手人さし指の爪の生え際に突き刺さった。被爆後一年ほどして緑色がかった爪が生え始め、そのうち黒くなる。二、三年経ち二センチほどにのびると根もとに亀裂が入りポロッと自然に落ちる。五十七年後のいまもその部分から黒い爪は押し出されてくる。 写真では捉えられない内なる破壊の恐ろしさが伝わってくる。底冷えのする恐怖とでも言おうか。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
船橋洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
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