政治的なるものとは~思索のための1冊
政治的なるものとは~思索のための1冊 (2)

力で支えられぬ理想は幻影――高坂正堯『国際政治 恐怖と希望』

執筆者:橋本五郎 2022年5月8日
著者の高坂正堯(右)は1980年代、中曽根康弘首相の私的諮問機関「平和問題研究会」の座長も務めた ©時事
現実主義から権力政治を分析した高坂正堯は、吉田茂の軽武装・経済中心主義を高く評価すると同時に、「価値の体系」をないがしろにしなかったかとも問い返した。ロシアによるむき出しの暴力と恐怖に触れた日本社会に夢想的な中立論と現実追認主義が交錯する中、成熟した相対的思考に裏打ちされた「高坂国際政治学」は、今日でも色あせていない。

 ロシアによるウクライナ侵略は、これまで積み上げてきた国際社会に生きる国家としての矜持を木端微塵に打ち砕いた。自国のことは自国民が決めるという「自立権」、侵略戦争は認められないというガラス細工のような原理は、むき出しの暴力の行使をいささかも厭わないという大国の権力意志の前に、不意打ちを食らったようにたじろがざるを得なかったのである。

 今回のウクライナ侵略は、「プーチンによる、プーチンのための、プーチンの戦争」と言われる。本質を衝いた指摘だが、その背後には、失われた「ロシア帝国」の復活というロシア人の願望が見逃せないし、その手法は、ロシアの伝統的な「欺瞞作戦(マスキロフカ)」を踏襲している。この手法については、最近出版された米ABCニュース元記者カティ・マートンの『メルケル 世界一の宰相』(文藝春秋)に詳しいが、それは20世紀前半にロシア軍が生み出した手法で、簡単に言えば「だまし・否定・偽情報」の三語に要約できるというのである。

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
橋本五郎 『読売新聞』特別編集委員。1946年秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、読売新聞社に入社。論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。2006年より現職。『読売新聞』紙上で「五郎ワールド」を連載するほか、20年以上にわたって書評委員を務める。日本テレビ『スッキリ』、読売テレビ『ウェークアップ!ぷらす』、『情報ライブミヤネ屋』ではレギュラーコメンテーターとして活躍中。2014年度日本記者クラブ賞を受賞。著書に『範は歴史にあり』(藤原書店)『「二回半」読む――書評の仕事1995-2011』(以上、藤原書店)『不滅の遠藤実』(共編、藤原書店)『総理の器量』『総理の覚悟』(以上、中公新書ラクレ)『一も人、二も人、三も人――心に響く51の言葉』(中央公論新社)『官房長官と幹事長――政権を支えた仕事師たちの才覚』(青春出版社)など多数。
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